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映画批評「THE WAVE ウェイヴ」

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2009.11.11 映画批評
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11月14日公開の「THE WAVE ウェイヴ」。
監督:デニス・ガンゼル 脚本:デニス・ガンゼル、ペーター・トアバルト 出演:ユルゲン・フォーゲル、フレデリック・ラウ、マックス・リーメルト、ジェニファー・ウルリッヒほか 上映時間:108分・PG12 配給:2008独/アット エンタテインメント
「es【エス】」(2002年)といえば、1971年にスタンフォード大学で行われた「刑務所を舞台にした権力への服従実験」を下敷きにしたシチュエーション・ムービーだが、本作「THE WAVE ウェイヴ」は、その実験以前の1967年にカリフォルニア州の高校で実際に起きた事件を下敷きにした作品。本国ドイツでは240万人を動員し、2008年ドイツ映画興行成績No.1に輝いた話題作だ。


ドイツのある高校で特別授業が始まった。教師のライナー・ベンガー(ユルゲン・フォーゲル)は、専門とはいえない「独裁制」の授業をどのように進めるべきか迷っていた。行き詰まったベンガーは「独裁には指導者が必要。この実習では誰が指導者をやる?」と切り出すと、生徒たちに指導者を選出させた(結局、指導者はベンガーに)。その日から教室のムードは徐々に変わり……。
「es【エス】」ほどガチガチな心理実験ではなく、こちらは、ある授業で行われた「独裁ごっこ」が暴走し、歯止めがきかなくなっていくというもの。ゆるやかに「独裁制」に傾倒していく教室の雰囲気がじつに無気味。「独裁制」に心酔する者が増えるにつれて、生徒たちの「行動」は「活動」へと変化していく。
ドイツにとって、ヒトラー率いるナチスによる独裁政治は、あまりに重たく苦々しい歴史だ。もしドイツ国民に「今後再びヒトラーのような独裁者が台頭することはないか?」という質問を投げれば、多くの人が「台頭するはずがない」、あるいは「台頭させてはならない」と答えるだろう。過去の過ちは二度とくり返さない、と。
そう想像がつくだけに、この映画がもたらす衝撃は小さくない。指導者ベンガーに忠誠を誓った生徒たちは、成績の善し悪しや家庭環境うんぬんを超越して団結していくが、そうした忠誠心や団結力がひとたび先鋭化したとき、彼らは何をし始めるのか? この映画で注視すべきは、まさしくそこ。中盤以降、観客はファシズム統制下における集団心理が行き着きがちな“狂気”を見せられる。
興味深いのは「独裁制」のもとで生きる者にとっては、組織から与えられた役割を果たすことが自己存在の肯定となり得る、ということだ。現に、指導者に対する絶対の服従が、生徒たちの渇いた日常に潤いを与える。彼らにとって「独裁制」は思いのほか刺激的で楽しみがいのある環境だったのだ。
しかし一方では、指導者に反抗的な者は“異分子”と見なされ、排除や弾圧の対象となるのも事実。あるいは狂信的な新興宗教などで、こうした「独裁制」のメソッドを悪用しているケースもありそうだ。
もちろん「独裁制」自体を全否定するわけではない。たとえば、日本の学校における学級崩壊。指導者の言葉に何の強制力もなく無法地帯と化した空間に「独裁制」のエッセンスを添加してあげることで、環境が適正化される可能性はないだろうか? 要するに、活用の仕方である。
衝撃的なクライマックスは一瞬にしてやって来る。ここで描かれる「取り返しのつかなさ」を含めて、この映画は、「独裁制」のもとで自己制御が不能となった集団心理の本質を見事に射貫いている。エンターテインメントとして楽しむという類いのものではないが、人間観察が好きな方にとっては、分析・検証のしがいのある1本だ。


お気に入り点数:70点/100点満点中

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