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映画批評「キャピタリズム ~マネーは踊る~」

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2009.12.7 映画批評
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公開中の「キャピタリズム ~マネーは踊る~」。
監督・製作・脚本:マイケル・ムーア 製作総指揮:キャスリーン・グリン、ボブ・ワインスタインほか 撮影:ダニエル・マラシーノ、ジェイミー・ロイ 音楽:ジェフ・ギブス 上映時間:127分 配給:2009米/ショウゲート
「華氏911」(2004年)や「シッコ」(2007年)など、話題性のある社会派ドキュメンタリーを撮り続けてきた奇才マイケル・ムーア。氏の作品に少々過剰で独善的な面があるのは事実だが、なにはともあれ、それが「ムーア流ドキュメンタリー」として確立されていることは間違いない。氏は常に「庶民」や「弱者」の立場に立ち、地位や権力を乱用する人々に、鋭い刃(やいば)を向ける。そのスタンスはよくも悪くも崩れることはない。


事実、ドキュメンタリーが弱者の苦悩を代弁したとき、社会を変えるほどの変革を起こしかねないことを、これまでにもムーア監督は実証してきた。たとえば、ブッシュ大統領の再選阻止の目的で公開された「華氏911」は、当初の目的こそは果たせなかったものの、のちのオバマ政権の誕生に、まったく影響を及ばさなかったとは言えないだろう。氏がドキュメンタリーという形態を借りて示すメッセージは、少なくとも庶民にとっては、形骸化した社会保障制度や弱者救済制度以上に重みを持っているに違いない。
そんなムーア監督が今回牙をむいた相手は、資本主義(キャピタリズム)およびその舞台でマネーゲームをくり広げる拝金主義者たちだ。
2008年9月15日に起きたリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した100年に1度の世界同時不況。その痛手をもっとも受けたのは、社会の底辺で真面目に仕事をしてきた罪なき人々だ。アメリカでは住宅市場が大暴落したうえ、銀行や企業の倒産により、自宅や仕事を失う人が続出した。一方で、金融危機を招いた張本人たち(投資銀行や保険会社)は公的資金で救われた。その不公平さをムーアは見逃さない。そもそもムーアが本作の取材を始めたのは、リーマンショックの4ヵ月前からだったというから、その嗅覚の鋭さには舌を巻かざるを得ない。
さまざまな資料映像に加え、マネーゲームの割を食った社会的弱者の肉声、さらには複雑な「デリバティブ(金融派生商品)」をはじめとした一般人には理解しにくい制度の解説などを盛り込んで、今アメリカで何が起きているのかを専門書の100倍ほど簡単にかみ砕いて取りまとめていく。単に事実を羅列するだけでなく、誰もが最後まで興味を持って見られるエンターテインメントとして料理しているところが、ムーア作品の真骨頂。ムーア監督自身が銀行や保険会社に乗り込もうとするパフォーマンスが本当にパフォーマンスにしか見えないなど、いい意味でのガサツさや緊張感が影を潜めていた気もするが。
本作で語られる「キャピタリズム(資本主義)」とは、「合法化された強欲なシステムのことだ」とムーア監督は指摘する。そしてこう言うのだ。「テーブルに10切れのパイがあって、ひとりの人間がその9切れを自分のものだと言い、残りの9人が残った1切れを奪い合う。それは間違いだ」と。
資本主義というテーマがあまりに大きすぎるため、「そんな単純な話じゃないだろ!」という批判は避けられなさそうだが、ムーア監督にしてみれば、その手の批判は想定済み。むしろ、そうした批判をリスクとして認識しながらも、資本主義を「合法化された強欲なシステム」と断言する姿勢に、氏の(映画人ではなく)ジャーナリストとしての勇敢さがある。大いに賛否が飛び交い、この映画を見る人が増える状況こそが、資本主義をベースとしたこの世界にとって、もっとも好ましい気がする。


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