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映画批評「サベイランス」

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2010.2.12 映画批評
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公開中の「サベイランス」。
監督・脚本:ジェニファー・リンチ 原案・脚本:ケント・ハーパー 製作総指揮:デヴィッド・リンチほか 出演:ジュリア・オーモンド、ビル・プルマン、ペル・ジェイムズ、ライアン・シンプキンス、フレンチスチュアート、マイケル・アイアンサイドほか 上映時間:98分 配給:2007カナダ/ファインフィルムズ
カルト映画の奇才デヴィッド・リンチの愛娘ジェニファー・リンチが、物議を醸し出した「ボクシング・ヘレナ」(1993年)以降14年ぶりにメガホンを取ったのが本作「サベイランス」。2008年のカンヌ国際映画祭で上映された際に、評論家のあいだで賛否両論を巻き起こしたという問題作だ。
サンタ・フェの町で起こった無差別猟奇事件。地元警察にやって来た男女ふたりのFBIの捜査官によって、殺人現場に居合わせた生存者3名の取り調べが行われるが、彼らの証言は真実と微妙にズレている。なぜ彼らは真実を語らないのか? 3人が取り調べを受ける部屋にそれぞれ設置された監視カメラが、取り調べの一部始終を録画していた……。


殺人事件の目撃者3人の証言を通じて、姿の見えない犯人像に迫るミステリーだ。犯人については、比較的早い段階でピンとくる人もいるかもしれない。ただし、犯人探しがこの映画の最大の見どころかといえば、じつはそうではない。もちろん、観客の注意を真犯人とは別のところへ引き付ける巧妙な誘導描写も多く見られるが、そこに全精力を費やした、ありがちな謎解きサスペンスではない。
見どころは、真実と食い違う3人の証言であり、なぜ食い違うのか? という理由である。この映画は、殺人現場の目撃者という特殊な設定を借りながら、人間の個人的な「秘め事」をじわじわとあぶり出してく物語だ。3人の記憶をたどるフラッシュバックを多用しながら見えてくるものは、ウソの上塗りと、その“左官職人”になりきる人間たちの切実な(人によっては滑稽な)自己保身だ。
3人の「秘め事」がそれぞれ明確になったあたりから、思わず目を背けたくなるような不快な描写が増え始め、ある意味、こちらこそが“真犯人”とも言うべき猟奇犯ジェニファー・リンチ監督が用意した不条理劇場に観客は放り込まれる。
最終的には、その劇場内で表現される不快な世界観を楽しめる人は、この映画に「賛」を呈し、楽しめない人は「否」を呈すことになる。どちらにしても父親デヴィッド・リンチ譲りのバイオレンスが光る、悪趣味な映画には違いない。それにしても、この必要以上に不快な高域周波数を強調した効果音はどうにかならないものか。
不条理というよりは、やや不自然という印象が強く残る本作「サベイランス」は、それまでのドラマを豪快にひっくり返して唐突にサバイバルゲーム化する展開で、多くの観客を疲弊させ、一部のカルトムービー好きの高揚を誘う1本だ。この脱出不可能と思われるサバイバルゲームを制したのは一体誰なのか? それは自身の目でご確認のほど。ほかの者には見抜けずに、その者だけが見抜けた事実とは何だったのか。おそらく「サベイランス(=監視、見張り)」のタイトルには、FBI捜査官による監視という以外にもうひとつ大きな意味をもたせているのだろう。

お気に入り点数:65点/100点満点中

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