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映画批評「時をかける少女」

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2010.3.25 映画批評
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公開中の「時をかける少女」。
監督:谷口正晃 原作:筒井康隆 脚本:菅野友恵 撮影:上野彰吾 主題歌:いきものがかり 出演:仲里依紗、中尾明慶、安田成美、石丸幹二、青木崇高、石橋杏奈、勝村政信ほか 上映時間:122分 配給:2010日/スタイルジャム
筒井康隆原作の「時をかける少女」といえば、1983年に大林宣彦監督が映画化、2006年に細田守監督が長編アニメ化するなど、時代を超えて愛され続けている作品。谷口正晃監督の劇場用長編初作品となる本作「時をかける少女」は、そんな人気作品の2010年版。脚本、演出、演技の三拍子をそろえた良質のエンターテインメントだ。
薬学者である母・和子(安田成美)の一人娘・あかり(仲里依紗)は、大学に合格したばかりの高校3年生。ある日、母の和子が交通事故に遭った。「過去に戻って深町一夫に会わなくては……」。病室でそんな和子のうわ言を耳にしたあかりは、その願いを叶えるべく、和子が開発した薬を使ってタイム・リープ(時空移動)することに。ところが、念ずる時代を間違えたため、予定よりも2年あとにタイム・リープしてしまった……。


あかりはタイム・リープ先の1974年で、自主映画の製作に励む大学生・涼太(中尾明慶)と出会う。映画は、丁寧にディテールの描写を積み重ねていき、共同生活を始めたあかりと涼太が、少しずつその距離を縮めていく様子を描く。
注目すべきは、当初は用事を済ませて一刻も早く母のもとに戻ろうとしていたあかりが、しだいに涼太のもとから離れがたくなる心情の変化だ。なかなか言葉にできない恋心と、別れを受け入れなければならないせつなさ。若者の特権たる純情さとタイム・リープにつきまとう非情な運命が交錯するドラマは、「時かけ」シリーズの真骨頂でもある“センチメンタリズム”へと収斂していく。
意外と楽しめるのが、街並やアパート、銭湯、ファッション、ヘアスタイル、音楽、映画、食べ物など、70年代をリアルに再現したビジュアルだ。また、涼太に代表される70年代の若者たちの、貧乏だけども夢に燃え、明るい未来を信じる姿は、未来に夢を見なくなって久しい21世紀の住人(われわれ)に勇気と心地よいノスタルジーを与える。
涼太が仲間たちと自主映画製作に没頭する様子は、映画ファンや映画関係者(大林宣彦監督を含む)をニヤリとさせるに違いない。侃々諤々と意見を戦わせながらの脚本作り、DIYの味わいを漂わせまくった特撮現場、決して豪華とはいえないセットを使っての実写撮影……。映画作りにオマージュを捧げたユーモアあふれるシーンの数々は、嫌みのない笑いを客席へ届ける一方で、涼太自身が作品に込めた「ある思い」を通じて、映画終了間際に観客の落涙を誘う。日本を代表する青春ドラマにつき、少々臭い演出には目をつぶろうではないか。
「過去」と「現代」の狭間に生じる関係性の歪みを、物語の魅力に変換した巧みな脚本は、あちらこちらに張り巡らせた伏線を終盤できれいに回収し、多少の力ワザを交えながら、ほぼ破綻のない整合性を実現。ムダのないシーンを積み重ねた122分間は、今回が劇場長編の初メガホンながら、映画の世界を知り尽くしている谷口正晃監督の堅実な采配の賜物だ。きっと谷口監督のその昔は、映画作りに燃える涼太のような憎めない青二才だったのだろう。
あかりを演じた仲里依紗は、その片意地張らない自然体の演技ですがすがしい印象を残す。1983年版の原田知世とはタイプこそ異なるものの、今どきの女子高生らしい快活さが魅力のニューヒロインだ。このキャラクターであれば、往年の「時かけ」ファンもおそらくは歓迎してくれるだろう。
笑って泣いてじわーっと感動する本作「時をかける少女」は、タイムトラベルもののSFとしても、青春映画としても実によくできた作品だ。ただいま青春謳歌中の人たちから、遠い昔に青春時代をすごした人たちまで、幅広い世代にオススメしたい。

お気に入り点数:75点/100点満点中

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