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2010年下半期 「映画」未批評作品 後編

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2011.4.1
批評し損ねた2010年下半期の作品を、一気にプチ批評!<後編>
「REDLINE」(日本)
http://red-line.jp/index.html
作画枚数10万枚を誇るアニメーション映画『REDLINE』は、独創性に富んだおどろおどろしい手描きの絵と、強烈なインパクトを残す奇想天外な舞台設定が魅力。繊細さと歪みを兼ね備えた手描きならではの映像が、CG映像とは一線を画す武器になっている。難点を上げるなら、主人公の「純愛」を際立たせるサブストーリーが弱かった点。木村拓哉と蒼井優が声優として新境地を開いた。 55点
「nude」(日本)
http://www.alcine-terran.com/nude/l
AV業界の第一線で活躍し続けてきたAV女優みひろが書き下ろした私小説を映画化。平凡な高校生がAV女優になるまでのプロセスを描くなかで、主人公みひろが直面するさまざまな現実的な問題、それに、内に秘めた不安や葛藤、野心などをリアルに描く。主演の渡辺奈緒子が、みひろの複雑な心情を繊細な演技で表現するほか、体当たりのベッドシーンでは美しい裸体も披露。意外に骨太な作品に仕上がった。 70点
「TSUNAMI -ツナミ-」(韓国)
http://www.mega-tsunami.jp/
高さ100m、時速800km/hのメガ津波が、韓国のリゾート地ヘウンデを襲う。ハリウッド式パニック大作の1/10にも満たない製作費ながらも、未曾有の災害にのみ込まれる韓国市民の日常と人間模様を仔細に描くことで、ハリウッドのヒーローものと一線を画す。巨大タンカーが空から降ってくる映像はすさまじいが、作品の主眼は、突如として死の恐怖に直面した人々が体現する、人間としての誇りや自己犠牲の精神(愛)などに置かれている。 55点
「冬の小鳥」(韓国)
http://fuyunokotori.com/
70年代の韓国を舞台にした感動作。大好きな父に捨てられて孤児になった9歳の少女ジニ(キム・セロン)が、現実に抗いながらも、少しずつ運命を受け入れていく物語。情緒豊かな演出で、少女の絶望と再生への軌跡を描く。父の迎えを待ち続けるジニのひたむきさが心を打つ。 65点
「ルイーサ」(アルゼンチン、スペイン)
http://www.action-inc.co.jp/luisa/
突然職場を解雇された還暦女性ルイーサが、盲人になりすまして地下鉄駅構内で小銭を稼ぎ始める……というストーリー。舞台は失業率8%超のアルゼンチン。倫理道徳もどこ吹く風、ホームレスや身体障害者になりすますルイーサは、社会の底辺で、失いかけた誇りを取り戻したうえ、社会や他者との“つながり”も再確認する。社会の厳しい現実と強靭な人間の生命力を、ユーモアを交えて描いた秀作だ。 85点
「エクスペンダブルズ」(アメリカ)
http://www.expendables.jp/
マッチョで命知らずの傭兵軍団が大活躍する本作は、プロジェクトリーダーのシルベスター・スタローンをはじめ、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ブルース・ウィリス、ミッキー・ロークら肉食系のスター俳優10名が勢ぞろいするお祭り筋肉作品(なんとシュワちゃんも登場!)。南米の軍事独裁政権を彼らだけで倒すというB級風のトンデモ展開ながら、彼らの筋肉アクションを見せるには格好の設定。 60点
「瞳の奥の秘密」(スペイン、アルゼンチン)
http://www.hitomi-himitsu.jp/
第82回アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作品。舞台は独裁軍事政権下のブエノスアイレス。凄惨な殺人事件の謎を追うミステリーにふたつのロマンスを編み込んだ濃厚なドラマは、巧みのカメラワークや芸達者なキャストの好演と相まって、観客を気持ちをグイグイと引き込む。衝撃的な結末は、国家の都合により加害者に対する厳罰の機会を奪われた被害者遺族の「愛憎」を浮かび上がらせる。 90点
「アイルトン・セナ 音速の彼方へ」(イギリス)
http://senna-movie.jp/ 
“音速の貴公子”と呼ばれ、3度のF1王者に輝いたアイルトン・セナの生涯に迫った本作は、バブル期に空前のF1ブームを体験した世代に贈る珠玉の1本! 政治と金がモノを言うF1で葛藤を強いられながらも、レースに対する純粋な心と情熱を持ち続けた最速男の生き様がここに。「かなうなら、何の制約もなく、純粋にレースをしていた頃に戻りたい」と話すセナが印象的。1994年、セナが逝ったイタリア・サンマリノGPの衝撃的な映像が、F1ファンのやりきれない思いを痛切によみがえらせる。 80点
「隠された日記」(フランス、カナダ)
http://www.alcine-terran.com/diary/ 
古い一冊の日記に記された真実を通じて、絡み合っていた祖母、母、娘という3世代の「哀しみ」がほどけていく物語。テーマは女性たちの「愛」と「自立」。結末に用意したショッキングな真実は、女心の複雑さを示すメタファーか、あるいは、観客に「自立とは何か?」を問わせる手土産か。名女優カトリーヌ・ドヌーヴの存在感が際立つ。 65点
「ソフィアの夜明け」(ブルガリア)
http://www.eiganokuni.com/sofia/index2.html
2009年の東京国際映画祭でグランプリを受賞した本作は、ブルガリアを舞台に、格差社会の下層で生きる人間たちの葛藤と憤り、そして愛を描いたヒューマンドラマ。主人公のイツォを熱演したフリスト・フリストフの破天荒な生き方を下敷きに脚本が紡がれた(フリストは撮影終了間際に不慮の事故で他界)。ホロ苦い余韻とわづかな希望を残す叙情的な青春記だ。 70点
「パートナーズ」(日本)
http://partners-movie.com/
子犬のチエが盲導犬へと成長していく過程を背景に、チエに関わる盲導犬訓練士らの人間模様を描く。感動を安売りするステレオタイプな演出には到底賛同できないが、盲導犬とは何ぞや? を知るには適当な教材である。 30点
「リミット」(スペイン)
http://limit.gaga.ne.jp/
棺桶に閉じ込められたまま埋められた男が、唯一の命綱である携帯電話を頼りに、脱出を試みる究極のワンシチュエーションムービー。史上最小空間でドラマを完結させたアイデアは立派。政治的なアイロニーも込められているが、それより何より、見どころは脱出劇だ。あなたなら携帯電話やオイルライターをどう使う? 知らず知らずのうちに観客は絶体絶命のピンチを追体験させられる。 70点
「マチェーテ」(アメリカ)
http://bd-dvd.sonypictures.jp/machete/
鬼才ロバート・ロドリゲスがお見舞いする壮絶アクション作品は、設定もキャラもぶっ飛びまくり。 主演は“恐ろしい顔”の持ち主ダニー・トレホで、ミシェル・ロドリゲス、ジェシカ・アルバ、スティーヴン・セガール、ロバート・デ・ニーロらが脇を固めるというB級映画にはありえない豪華キャスト! このメンツでエロあり、グロあり、何でもありのアクション映画を作るあたりがロバート・ロドリゲスの真骨頂。不法移民問題もチクリ。 65点
「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」(アメリカ)
http://www.herbanddorothy.com/jp/
1LDKのアパートに4000点におよぶ現代アート作品をコレクションした老夫婦のライフワークを追ったドキュメンタリー映画。時間があれば作家のアトリエや個展に足を運び、その目で作品を確かめるのがふたりのやり方。他者(評論家や市場価値)の評価に依存しないふたりの鋭い鑑識眼に頭が下がる。芸術の真価について考えさせられる。監督は日本の佐々木芽生。 75点
「信さん 炭坑町のセレナーデ」(日本)
http://shinsan-movies.com/
昭和30年代、九州のとある炭坑町が舞台。炭坑の「繁栄→衰退」という時代の波に翻弄されながら、貧しくも明るく懸命に生きた人々の姿を描いた感動ドラマ。テーマは人間の絆、それに愛と友情だ。取り巻く環境やライフスタイルは異なれど、昭和30年代も今も「人が不安と悩みを抱え」ながらも「幸せを希求する」姿は変わらない。平山秀幸監督作品。 65点
「デイブレイカー」(アーストラリア、アメリカ)
http://www.daybreakers-movie.jp/
主演はイーサン・ホーク。圧倒的大多数のヴァンパイアが絶滅危惧種である人間たちを支配するという特異な世界を描いたSFスリラー。駅の売店で人血をブレンドしたコーヒーが売られるなど倒錯した世界を描いた序盤は、傑作の予感さえさせる出来映え。人間を食料としか見ないヴァンパイアたちの横暴さを通じて、人類のおごりを皮肉るあたりの批判精神も鋭い。ところが、中盤以降、展開もアクションも乱暴になってしまった。残念。 70点
「ベストセラー」(韓国)
http://enet-dvd.com/enet/sp/bestseller/
盗作疑惑をかけられたベストセラー作家が、人里離れた山奥の不気味な別荘で、奇妙な体験をしながら完成させた新作。が、再起をかけたこの作品に再び盗作疑惑をかけらて……という物語。22年前のある事件に端を発するミステリーの「タネ」は凡庸と言わざるを得ないが、スランプに陥る病的な女流作家に扮したオム・ジョンファの怪演が見逃せない。 30点
「エクスペリメント」(アメリカ)
http://www.experimentmovie.com/
70年代にスタンフォード大学で行われた心理実験を下敷きにした監獄実験スリラー。極端なシチュエーションに被験者たちを押し込めることによって、理性の奥に潜む人間の欲望や残虐性、それに、支配されてきた人間が支配する側に回る“支配の連鎖”をあぶり出す。エイドリアン・ブロディやフォレスト・ウィティカーを器用することで安定感は増したが、同じ心理実験をモデルにした2002年公開の『es[エス]』の二番煎じの印象は拭いきれていない。 60点
「ソーシャル・ネットワーク」(アメリカ)
http://www.socialnetwork-movie.jp/
天才デヴィッド・フィンチャー監督の最新作は、現代的なテーマに正面から挑みつつ、人間誰もがもつ「光と影(多面性)」をほぼ完璧に活写。知的で繊細で大胆で心躍る、映画的興奮が得られる傑作ヒューマンドラマだ。主人公のマーク・ザッカーバーグは世界最大のSNS「Facebook」の創始者。奇人めいた彼の内面を描きすぎないことにより、観客のあらゆる解釈の余地を残している。 95点
「デザートフラワー」(ドイツ、オーストリア、フランス)
http://www.espace-sarou.co.jp/desert/
世界的な黒人トップモデル、ワリス・ディリーの自伝本を映画化。ソマリアの貧しい遊牧民家庭に生まれたワリスの生命力あふれるシンデレラストーリーであると同時に、「女性割礼」の残酷さと危険性を告発する骨太な社会派作品でもある。彼女が3歳のときに受けたという割礼のシーンでは、思わず目を覆わずにはいられない。 90点
「きみがくれた未来」(アメリカ)
http://kimi-mirai.jp/
弟を亡くした兄が、新たに芽生えた愛を通じて、弟の幻影に別れを告げる成長の物語。非現実的な設定はいいとしても、底の浅いテーマとテンポの悪さが気になる。主演は「ハイスクール・ミュージカル」で一躍ブレイクしたザック・エフロン。深い哀しみと喪失感に満ちた難しい役どころをこなし、アイドルから本格俳優へと脱皮した。
「シュレック フォーエバー」(アメリカ)
http://www.shrek-forever.jp/
パラレルワールドを盛り込むことで、人気シリーズの続編にありがちなマンネリ気分を回避。それどころか、一から信頼や愛を勝ち取る難しさを通じて、主人公に日々のありがたさを痛感させる「気づき」の物語は、新味たっぷりで見ごたえ十分。シリーズのファンであれば、本作でしか拝むことのできない各キャラの変貌ぶりが楽しめるはずだ。 70点
「君を想って海をゆく」(フランス)
http://www.welcome-movie.jp/
クルド人難民の少年ビラルと水泳コーチのシモンの絆を描いた物語。イギリスで暮らす彼女への純愛を貫くビラルは、ドーバー海峡を泳いで渡って英国本土に上陸することを画策していた。一途なビラルに対するシモンの感情が、しだいに「打算」から「父性的」なものへと変化していくあたりが見どころ。理不尽で不寛容な移民問題に対する告発も兼ねた秀作だ。 70点

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