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物語「鼻にビーズ」

締め切りの原稿に追われ、フィニッシュまであと一時間! といきんでいたとき。
「ちょっと来てー!」と妻の声。
駆け付けると妻の膝の上で娘が泣いている。
「どうした?」


「突然泣きだしたの。鼻の中にビーズを入れたっていうの」
「本当か?」と娘に聞くと、「うん。入れちゃったのー」と娘。
妻とふたりで鼻をのぞくが、どうも入っている気配がない。
子供のことだから、何かの勘違いかも知れない、と思った。
「どうやって入れた?」「今どこにある?」「痛い?」
真偽のほどを確かめるべく、質問攻めにする。
「じゃあ、お医者さんに行って取ってもらう? 痛いよ?」
埒が明かないのでカマをかけてみると、
「うん、お医者さんで取ってもらうー」と泣くので、
いよいよ“ビーズ鼻孔挿入”が濃厚に。


懐中電灯を持ち出し、さらに鼻の奥を真剣にのぞく。
娘が入れたというビーズ(子供が遊ぶ用の少し大きいヤツ)を片手に、
同じものが入っていないかどうか……。
「ああ、入ってる入ってる!」
私にも妻にもほぼ同時に見えた。
かなり奥のほうだ。我々にはちょっと手の施しようがない。


119に電話をして、どうしたらいいかアドバイスを受けてから、
クルマで川越にある埼玉医科大学総合医療センターに。
20分ほど待たされた後、かなり不機嫌そうな先生が登場。


「ああ、入ってる入ってる」と言ったあと、
やたらと長いピンセットを娘の鼻に突っ込むが(かなり荒々しい)、
怖がった娘が暴れる。
娘は妻のひざの上にいたのだが、
「お母さん! もっとしっかり押さえて! ああ、ダメだ看護婦さんと代って!」と
交代を命じられる。
私が代ろうとすると「お父さんはいいからあっち行ってて!」と一蹴される。
ほじくり出し作戦に手間取り、娘も「痛いよー、やめてー!」と大泣き。
「痛いよっていう前に、そういうことするなよ!」と不機嫌先生。


手間取ったといっても、1分はかからなかったと思う。
ポロッとビーズが出てきた。
号泣する娘。
「もうしちゃダメだぞ!」と、不機嫌先生ほか一同に言われ、
「もうしにゃーい、ごめんなじゃーい」と号泣する娘。
いい人生経験になったのではなかろうか。
しばらくは鼻もほじらないだろう(^^;)


でも、娘に「どうして鼻にビーズなんて入れたの?」と聞いたときの答えには笑った。
「うんとね、ビーズがね、鼻に入るかなー、って思ったの」
「どのくらいまで入るかなーって、思ったの」
……鼻に入るかどうか試して、鼻に入った訳だ。
自業自得の極みだな。


家に帰り、先生が最後に娘の鼻に詰めた綿を取ると……血がにじんでいた。
不機嫌先生か……。

娘よ、自業自得の代償を学ばれたし。

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