No.3「十二人の怒れる男」
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銀幕をさまよう名言集! No.3 2008.1.15発行
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1957年/アメリカ 「十二人の怒れる男」より
12人の陪審員を主人公にした密室群像劇の傑作。
日本でも平成21年から裁判員制度が導入される予定につき、
この時期に見ておくのはいいかもしれない。
17歳の少年に疑いがかけられた、ある殺人事件の裁判。
12人の陪審員が陪審員室で審議を始めたところ、
12人のうち11人が少年の“有罪”を主張。
だが、唯一、“無罪”を主張した男がいた。
そしてその男の発言をきっかけに、
“有罪”の根拠が少しずつ揺らいでいき、
時間とともに“無罪”へと主張替えする者が、
2人、4人、6人、9人……と増えていった。
果たして、最終的に陪審員が下した評決とは?
おもしろいのは(と書くのは不謹慎かもしれないが)
当初“有罪”を主張していた陪審員たちの態度である。
この日はうだるような暑さで、
事前に審理に参加していた陪審員たちは疲れ切っていた。
陪審員室の扇風機は壊れており、まるで蒸し風呂だ。
さっさと評決を下して、家に帰ろうじゃないか。
そんなムードが漂っていた。
「みんなも用事があるだろうから…」とつぶやく者もいれば、
今夜のヤンキース戦に行くのを楽しみにしている男もいる。
しかも、被告の少年は、スラム出身の札付きのワル。
陪審員の多くは、明らかに少年に差別と偏見を抱いている。
その偏見が、証拠の甘さを指摘すべき目を曇らせている。
目撃者がいたという事実は真に受けても、
その目撃者の発言の信ぴょう性に疑いをもつ者はいない。
いや、もとうとさえしない、といったほうが正しいかもしれない。
なぜなら、少年がスラム出身の札付きのワルだから。
そんな彼らに、“無罪”を主張する男は言う——
「人の生死を5分で決めて、もし評決が間違ってたら?」
そして、こう言葉をつなげる——
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1時間話し合おう。試合開始は8時ですし。
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試合開始とは、今夜のヤンキース戦のことである。
なにも自分もヤンキース戦に行きたいから、
そんなことを言ったわけではない。
陪審員たちにナイター情報をアナウンスしたかったわけでもない。
その真意は、皮肉である。
ふつうに考えれば、
死刑をめぐる裁判とヤンキース戦のどちらが重要かは自明である。
しかしながら陪審員たちは、
暑さや疲れ、それに被告への偏見という後押しもあり、
ともすればヤンキース戦に軍配を上げかねない雰囲気であった。
だから、“無罪”を主張する男は、
試合開始は8時ですし。
そんな言葉を選んだのだろう。
「早く家に帰りたい」と気が急いている陪審員たちをなだめるかのように。
この言葉の巧みさを説明するのは、なかなか難しい。
がしかし、「ナイターと裁判とどっちが大事だと思ってるんだ!!」と激昂するよりも
圧倒的に有効な言葉であったことは間違いない。
試合開始は8時ですし。
を訳せば、
ナイターには十分間に合う(ので、心配しなくて大丈夫ですよ)
である。
最大級の皮肉をこめながらも、
相手への配慮をにじませることで、反論する余地を与えない。
“激昂”が招くものは“激昂”でしかないが、
“配慮”は、相手の“譲歩”を勝ち取ることができる。
そのことを彼は十分に理解している。
知的であり、冷静である。
結局、このひと言がきっかけとなり、
11人は、ようやく陪審員の重責を自覚し始める。
かくして、1対11のワンサイドゲームからの
世紀の大逆転劇が始まったのである——。
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●編集後記
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「十二人の怒れる男」は
法の不完全さに光をあてた社会派作品です。
日本でも冤罪を扱った「それでもボクはやってない」(06)がヒットしましたが、
テーマ性と息づまるようなタッチが似ています。
法の不完全さに光をあてていながら、
実は光をあてられているのは、人間の不完全さであるという点を含めて。
当初から“無罪”を主張していた男を演じたのは
名優、ヘンリー・フォンダ。
氏の遺作である「黄昏」(81)は、個人的にとても好きな作品なので、
いつかこのメルマガでも紹介したいと思います。
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■銀幕をさまよう名言集! No.3「十二人の怒れる男」
マガジンID:0000255028
発行者 :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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