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No.21「ウォール街」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.21  2008.5.11発行 
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1987年/アメリカ 「ウォール街」より
株式売買、企業買収、マネーゲーム、巨万の富、
そして——インサイダー取引。
舞台は、アメリカ経済を支えるウォール街の株式市場。
金と心、悪徳と道徳、虚栄と実直、貧乏と富豪……等々
相反するモノを対比させながら、
株式売買や企業乗っ取りに躍起になる人間の姿を、
ドラマチックかつスリリングに描いたエンターテインメント作品だ。
ひとりの若き証券マンが、
この世界の成功者のひとり、ゲッコーに請われ、
不正取引に手を染めていく。
ゲッコーは金さえ儲かれば、手段を選ばない男だ。
ゲッコーはあるとき、
ライバル視している富豪ワイルドマンから
利益を横取りするカタチで大金を儲けた。
不利益をこうむって腹を立てたワイルドマンが、
ゲッコーの自宅に乗り込んできた。
ワイルドマンが言う——
     「ゲッコー、おまえは企業のたかり屋だ。
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      金のためなら母親をも売り飛ばす。それも着払いでな」
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相当な言われようだ(笑)
もちろん、ゲッコーが本当に母親を売り飛ばしたワケではない。
売り飛ばそうともしていない。
でも、売り飛ばしかねない男であることは、確かだ。
どんな企業にも伝統や誇りや社会的使命があり、
また、そこでは大勢の労働者が働いている。
だが、そんな企業や労働者のことなど知ったことか! とばかりに、
ゲッコーは、平気で人を利用し、欺き、陥れる。
まさしく金の亡者。
      金のためなら母親をも売り飛ばす。 
金を絶対的に優先する男。
その男の例えとしては、言い得て妙だ。
しかも、最後のひと言が決定的だ。
      それも着払いでな。
母親を売り飛ばして手に入れる金だけではなく、
その配送料すら払おうとしない、そのしたたかさ。
いや、容赦のなさ。
「母親を売り飛ばす=非情な人間」+「着払いで送る=容赦のない人間」
この計算から導き出されるゲッコーという人間像は——
——あえて言うまい。
ゲッコーは筆頭株主として出席したある会社の株主総会で
マイクを片手にこんなことをうそぶく——。
     「“欲は正しい” です。
      欲は正義であり、原動力です。
      欲は人の頭を働かせ前進を促し、
      進取の気性を与えます。
      欲のカタチはさまざまです。
      生存欲、金への欲、愛への欲、知識欲。
      欲が人類を進歩させた。
      覚えておいてください——
      欲こそがこの会社を救い、
      わが国をも機能させるのです」
説得力がないわけではない。
事実、彼はこの場で大勢の株主から拍手喝采を受ける。
ただし、問題は、そうした欲の性質ではなく、
その持ち方・使い方にあるといえる。
少なくとも、己の財欲を満たすためだけに、
人を利用し、欺き、陥れるゲッコーに、
正しい欲の持ち方・使い方が分かっているとは思えない。
もちろん、最低限の欲が満たされていなければ、
人間は破綻を来す。
生存欲、食欲、睡眠欲、性欲……などなど。
人間に満たしておくべき欲があるのは、事実だろう。
だが、必要以上の欲については、
あるいは、財欲や名誉欲については、
あらゆることに優先されるというわけではない。
とくに倫理や道徳を無視したまま欲をかいたときには、
必ずしやその代償を支払わされることになる。
むろん、ゲッコーにも凋落のときが訪れる。
因果応報というヤツだ。
本作「ウォール街」における良心は、
若き証券マンの父である。
彼は今にも道を踏み外そうとしている息子に、
     「オレは財布の厚さで成功を測ったりはせん!」
と言い、
ついに道を踏み外した息子に、
     「あぶく銭を求めずにモノを作れ。
      売り買いではなく、創造するんだ」
と言う。
おそらく——欲に罪はない。
その欲をどう持ち、どう使うか、
そこに人間の価値が表れるのではないだろうか。
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●編集後記             
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「ウォール街」では、ゲッコーを演じたマイケル・ダグラスをはじめ、
若き証券マンを演じたチャーリー・シーン、
その父を演じたマーティン・シーン(実の親子共演)などが、
熱のこもった演技を見せてくれます。
マネーゲームに明け暮れる人々の背後で、
音を立てて崩れていく倫理観や道徳観。
そして、欲に目がくらみ、感性と感情を鈍らせていく人間のサマを、
オリバー・ストーン監督が巧みに描き上げています。
ジャーナリスティックな社会性のみならず、
男女間のラブロマンスや、父と子の絆なども、
うるさくない程度に織りまぜられています。
株式市場のむせかえるような熱気や、
当時のニューヨークのスポット、
富ある成功者の暮らしぶり、
多数登場する絵画などの芸術作品……。
そうしたものをチェックしてみても面白いと思います。
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■銀幕をさまよう名言集! No.21「ウォール街」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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