山口拓朗公式サイト

No.27「ヴェロニカ・ゲリン」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.27  2008.6.26発行 
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2003年/アメリカ 「ヴェロニカ・ゲリン」より
アイルランド国内で最大の部数を誇る
大手新聞社の女性記者ヴェロニカ・ゲリンは、
たび重なる脅迫や暴行にも屈することなく、
地元ダブリンに暗躍する麻薬組織の
首謀者を突き止めるべく取材を続けていた。
映画「ヴェロニカ・ゲリン」は、
そんな彼女が殉職するまでを描いた実話ベースの物語だ。
ある日、ヴェロニカは、麻薬組織のボスに接触を試みるも、
その場でひどい暴行を受ける。
顔中あざだらけのまま自宅で横になっていたその日の晩、
当のボスから脅迫電話がかかってきた。
     「警察にタレ込んだり、記事にしたら——
      おまえの息子をさらい、レイプする。    
      おまえもバラす(殺す)」
電話を切ると、ヴェロニカはトイレに駆け込み、嘔吐した。
強気のヴェロニカから、思わず「怖いわ……」という言葉がもれる。
ところが後日、ヴェロニカは、テレビ番組に出演し、
毅然とした態度で、こうコメントした——
     「私は殴った男を告訴する決意をしました。
      なぜなら——
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      犯罪者に屈するのは、敗北だから。                 
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      それは私の信念が許さない。
      もしひるめば、ジャーナリズムの公正さが失われ、やつらが勝つ。
      そうはさせない」
犯罪者の脅しに屈すれば、犯罪者の思うツボだ。
そうすれば、彼女の言う通り、「やつらが勝つ」ことになる。
正論であり、道理である。
とはいえ、ヴェロニカは、
     「おまえの息子をさらい、レイプする」
と脅迫された身である。
息子に危害が加えられる……。
それは、母親としては想像を絶する恐怖と言っていいだろう。
“逃げ出す”に値する事由であり、
それで逃げ出したとしても、
誰がヴェロニカを責められようか。
第一、相手にしている連中がどれほど恐ろしい悪党か、
それを一番よく知っているのはヴェロニカ自身である。
しかも彼女は警察官ではなく、一介の新聞記者にすぎない。
麻薬組織の首謀者を突き止めなくとも、
職場放棄ということにはなるまい。
それなのに、だ。
にもかかわらず、だ。
ヴェロニカは、毅然とした態度で、
相手の脅迫を突っぱねた。
強靭な女性だ。
     「犯罪者に屈するのは、敗北だから」
その正義感はどこから来るのだろう?
と思うと同時に、
自分だったらどうするだろう?
と考えずにはいられない。
わが子や自分の命を危険にさらすリスクを背負いながら、
彼女のような決断を下せるだろうか?
とても「イエス!」と即答することはできない。
いや、頭で考えている時点で、すでに「ノー」と答えているようなものか。
ヴェロニカは、その後も精力的に取材を進めるが、
最終的に、その命を落としてしまう。
カラダ中に鉛の弾をぶち込まれて。
彼女の殉職がきっかけで市民運動が盛り上がり、
その後、麻薬組織のメンバーは逮捕され、
街には平穏な日常が戻った。
結果的に、彼女の死は“ムダ死に”にならなかったワケだ。
彼女の勇敢さには頭が下がる。
讃える言葉さえ見つからない。
ただ、しばらくして、この映画を思い返したとき、
なぜか、ヴェロニカのお母さんが
生前のヴェロニカに諭すように言ったセリフがよみがえるのだ——
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     「乱暴者とは闘わないのもひとつの方法よ。
      近づかないほうが潔い場合もあるわ」
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正義感のかたまりのようなヴェロニカは、
その忠告を笑って受け流していたが、
ひとつの貴重な人命が失われたことに目を向けると、
お母さんの忠告にも、ただならぬ重さを感じてしまうのだ。
運よく麻薬組織を一網打尽できたからといって、
ヴェロニカの死を100%肯定していいのだろうか? と。
美談で終わらせていいのだろうか、と。
それは、彼女の正義感や勇敢さを讃える気持ちとはまた別次元のところにある、
しかしながら紛れもなく自分のなかに存在する複雑な気持ちである。
     「乱暴者とは闘わないのもひとつの方法よ」
そこにもまた正論、道理のようなものを感じてしまうのだ……。
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●編集後記             
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本作「ヴェロニカ・ゲリン」では、
正義感を貫いて命を落とした女性記者の生き様を通じて、
人間の“ 正義感”とは何なのか、ということについて、
さまざまなことを考えさせられます。
「ヴェロニカのような毅然とした態度や行動が取れなければ、
それは、“正義感”が欠如しているということになるのだろうか?」
あるいは、
「行動の伴わない“正義感”は、偽善なのだろうか?」
さらには、ヴェロニカの言うように、
「犯罪者に屈するのは、本当に敗北なのだろうか?」
などということまでを含めて。
答えはスムーズには出てきません。
皆さんはどうですか?
ヴェロニカの立場に立ったとき、
脅迫に対して、どう対処されますか?
もしよろしければ、ご意見をお聞かせください★
ちなみに、本作でヴェロニカを好演したのは、
ケイト・ブランシェットです。
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■銀幕をさまよう名言集! No.27「ヴェロニカ・ゲリン」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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