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No.29「ブロークバック・マウンテン」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.29  2008.7.16発行 
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2005年/アメリカ 「ブロークバック・マウンテン」より
舞台は1963年、ワイオミング州ブロークバック・マウンテン。
農場に季節労働者として雇われたイニスとジャックは、
いつしかお互いに友情を超えた感情を持つようになる。
肉体関係にも、至る。
ふたりは、仕事の契約が終了すると、離ればなれになり、
イニスは婚約者のアルマと結婚、
一方のジャックもやがて結婚する。
がしかし、ふたりの関係は終わってはいなかった。
彼らは、「友人と釣りに行く」と家族に告げ、
年に数回、逢瀬を重ねていたのだ……。
相手を愛する衝動と、
その衝動に100%正直に生きられないもどかしさ、
妻子への後ろめたさ、
そして、自分自身に対するあわれみ……。
ゲイがゲイであると告白することが
まだ許されなかった時代に、
彼らが抱えた葛藤と苦悩が、
布の上にこぼれたインクの染みのように、
じわじわと広がっていく。
イニスの妻、アルマは、
イニスの不倫(しかも相手は男)に気付くが、
あまりのショックに、その話をイニスに切り出せないでいた。
紆余曲折の末、
イニスとアルマは、離婚することになるが、
後年、アルマはイニスに、ある告白をした。
アルマ:「今でもジャックと釣りに行っているの?」
イニス:「前ほどじゃないかな」
アルマ:「1度も(あなたは)魚を持ち帰らなかったわね。
     私も娘たちも魚が大好きなのに……」
イニス:「……」
アルマ:「ある晩、魚籠(びく)を開けたら、
     値札が付いたままだったわ……。
     買ってから5年も経っていたのに」
イニス:「……」
アルマ:「釣り糸の先に、私は手紙をつけていたのよ——
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     魚を持ち帰って。愛してる。アルマ、って」                 
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イニス:「……」
アルマ:「家に戻って来たあなたは、
     『魚をたくさん釣って食べた』と言ってたわ。
     覚えてる?
     でも釣り糸には手紙がついたまま……。
     使った痕跡もなかった」
アルマはすべてお見通しだった。
イニスがジャックと釣りになんて行っていないことを。
釣りに行く、という口実で、ジャックと何をしていたのかも。
愛情が自分にではなく、ジャックにあることも。
アルマはふたつの苦しみを抱えていた。
ひとつは、イニスが不倫をしていたこと。
もうひとつは、その相手が男だったということ。
あるいは、イニスの不倫相手が女性であれば、
アルマはもっとストレートに、
イニスに真相を問いただすことができたのかもしれない。
ところが、相手が男であったために、
アルマは躊躇せざるを得なかった。
    <できれば、何かの間違いであってほしい>
そんな祈るような気持ちだったのではないだろうか。
だから、
釣り糸の先に手紙をつけたのだ。
    「魚を持ち帰って。愛してる。アルマ」 
と。
彼女はどんな気持ちで、その手紙を書いたのだろう。
    <私は全部知っているのよ>
という気持ちもあっただろうし、
    <お願い、私のところに戻って来て>
    <今ならまだ間に合うわ>
そんな気持ちもあったかもしれない。
がしかし、アルマの祈りや願いは届かず、
イニス は1度も家に魚を持って帰らなかった。
イニスが釣りに出かけるたびに、
そして、釣りから戻って来るたびに、
アルマは心を締めつけられたことだろう。
さぞかし苦しかったことだろう。
ゲイに対する偏見は未だに根強いものがあるが、
当時はそれに輪をかけて、
ゲイに対する偏見や差別が激しかった。
そうした時代だっただけに、
アルマの苦悩も一段と深かったはずである。
もしイニスがゲイであことが周囲にバレたら、
本人や家族がどれだけひどい差別を受けるかが、
目に見えていたのだから。
(当時は、同性愛カップルが惨殺されるような時代であった)
    「魚を持ち帰って。愛してる。アルマ」 
アルマが釣り糸の先につけた手紙は、
アルマが絶望の淵ですがった
唯一の希望だったはずである。
“自分の愛”と“家族の幸せ”のための。
だが、その手紙をイニスが読むことはなかった。
それどころか、
イニスとジャックが育んだ純愛のあいだには、
結局、何モノも割って入ることはできなかったのである。
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●編集後記             
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本作「ブロークバック・マウンテン」は、
保守的かつ閉鎖的な風潮に染められた
60年代のアメリカ社会を物語の背景に、
同性愛というテーマと真っ向から対峙した作品として、
物議を醸しました。
ゲイに対する差別的な描写を最低限に抑えつつ、
主人公ふたりの揺るぎない愛を描いています。
たびたび挟まれる雄大な風景の描写は、
彼らの純真無垢な愛を象徴したものである一方、
そんな彼らが抱く現実的な閉塞感との対比としても、
十分に機能し、効果を挙げています。
この美しい大自然の描写がなければ、
この作品がここまで高い評価を得ることは
なかったのではないでしょうか。
監督は、幅広いジャンルで
優れた作品を発表し続けているアン・リー。
また、ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが、
20年間にわたり、報われぬ愛に人生をゆさぶられ続けた
主人公をそれぞれ好演しています。
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■銀幕をさまよう名言集! No.29「ブロークバック・マウンテン」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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