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No.42「恋人までの距離(ディスタンス)」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.42  2009.1.7発行 
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1995年/アメリカ 「恋人までの距離(ディスタンス)」より
ブダペストからウィーンに向かう列車で、
たまたま隣り合わせた
アメリカ人青年(ジェシー)とフランス人女学生(セリーヌ)。
意気投合したふたりは、
ウィーンで電車を降りると、
そのままぶらぶらと街を散策する。
たった一晩の恋を描いたラブロマンス。
——と書けば、
いかにもベタな恋愛モノという印象を受けるかもしれないが、
この作品は、全編を会話で紡いだ異色作。
ふたりの会話が実に魅力的なのだ。
お互いを知るために、ジェシーとセリーヌは、
あらゆることを語り合う。
ジェシーの「初めてセクシーに感じた相手は?」
という質問を皮切りに、
人生観、死生観、恋愛観、宇宙について、
悩みについて、家族について……などなど。
青くさいものから達観したものまで、
自分たちが生きてきた人生のなかで、
経験したこと、考えたこと、思ったこと、
洗いざらいの価値観を、
がちんこで(いや、わずかな打算を含めつつ)
ぶつけ合うサマが軽妙だ。
なかには10分を超える長回しを、
どこまでが台本で
どこまでがアドリブだか分からないまま、
ひたすらしゃべり続けるシーンもある。
映画的なご都合主義をできるだけ排除し、
会話が紡ぎ出すリアリティで、
とことん勝負した作品だ。
数ある会話のなかから、
印象的なセリフをひとつ取り上げよう。
この場面では、セリーヌの話に、
ジェシーが耳を傾けている。
セリーヌ:「前に働いていたとき、雇い主に言われたの。
      『仕事に人生を捧げてきたけど、52歳で目が覚めた。
      自分は人には何も与えず、むなしい人生だった』って。
      ……彼は泣いてたわ」
ジェシー:「……」
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セリーヌ:「神様がいるなら、人の心の中じゃない。
      人と人とのあいだ——わずかな隙間にいる」
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ジェシー:「……」
世の中には、語らずして分かり合える仲というのも、
あるのかもしれないが、
多くの男女関係は、会話を重ねていくことで、
相手のことを少しずつ理解し、
その距離を縮めていくものだろう。
言葉のひとつひとつが、
相手を知る貴重な情報源となる。
     「神様がいるなら、人の心の中じゃない。
      人と人とのあいだ——わずかな隙間にいる」
神様について語った、
セリーヌの短い言葉のなかにも、
彼女の人間性の一端を見ることができる。
自分の人生を悔いて涙した52歳の雇い主の
印象的なエピソードを例に挙げたうえで、
神様の居場所について語る。
そのなにげない話のなかに、
セリーヌという人間の魂が、
宿っているように感じた。
しかも、この言葉、
神様が「人と人とのあいだ——わずかな隙間にいる」だなんて、
なんてステキな考え方なのだろう。
もし、そうした視点で神様という存在を、
とらえることができたなら、
そう、人と人とのあいだにいる神様に敬意を払えたなら、
この世界も、もう少し平和になるのかもしれない。
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●編集後記             
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本作「恋人までの距離(ディスタンス)」
の会話が魅力的なのは、
彼らが、若さゆえの不安や臆病さを抱えながらも、
自分自身をできるだけ客観的に分析し、
できるだけ素直に本音を伝えようとしているからだと思います。
彼らがお互いの話を聞く姿勢にも、
学ぶべきものがあります。
互いの価値観の相違を認めながらも、
常に相手を敬う気持ちを失わずに、
話に耳を傾けています。
多少の反論こそあれ、
相手の考え方や思想を揶揄したり、
否定したりすることはありません。
会話というのは、ときに不毛な、
あるいは、取り返しのつかない衝突を
引き起こすことがありますが、
相手を敬う気持ちを忘れなければ、
衝突を回避することは可能なのだと、
この作品の会話劇から教えられます。
主演はイーサン・ホークとジュリー・デルピー。
ふたりの実力が冴え渡る1本です。
監督のリチャード・リンクレーターは、
全編ほぼ会話劇となる本作で、
ベルリン国際映画祭監督賞を受賞。
続編となる「ビフォア・サンセット」は、
アカデミー賞脚色賞にノミネートされました。
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09年初の配信となります。
今年もできるだけ多くの映画とセリフを、
皆さんにご紹介できたらと思っています。
よろしくお付き合いください★
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■銀幕をさまよう名言集! No.42「恋人までの距離(ディスタンス)」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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