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No.45「風の前奏曲」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.45  2009.3.10発行 
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2004年/タイ 「風の前奏曲」より
舞台は戦時下のタイ。
タイの伝統楽器「ラナート」の奏者・ソーンの
生涯を描いた物語。
ラナートとは、木琴のような鍵盤打楽器。
ソーンはその第一人者だ。
ソーンの晩年、
タイの首相は、
タイの伝統文化を禁止しようとする。
「文明化した国家を作るため」というのが、
その理由だ。
ある日、軍の大佐が
年老いたソーンのもとにやって来た。
大佐 :「首相がこの法を定めたのは、
     わが国を文明化された近代国家にするためです」
ソーン:「文明化?
     自国の伝統を捨て去ることが?」
大佐 :「時代遅れのものは矯正せねばなりません。
     国家建設のために規則や命令は不可欠です」
ソーン:「(国家建設のためじゃなく)
     軍の規律を維持するために不可欠なのでは?
     あなたの命令で軍隊はいかようにも動く。
     だが、芸術家は別の規律で動くものだ。
     自国の伝統に無知な指導者の命令は、
     社会に害をなすだけのこと」
大佐 :「指導者を無知と言われるか?
     わが国は今、外国の侵略に備えている。
     指導者を信じてこそ生き残れるのだ」
ソーン:「そのために失うものは?」
ソーンはさらに続ける――
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    「大地に深く強く根を張った大樹は、
     よく嵐に耐えうる。
     われわれが根を養わずに、
     大樹は生き残れるか?」
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大佐 :「あなたと論争しに来たのではない。
     物事は単純。規則は規則です。
     一度発令されたら、全国民が従うのです。
     もちろん、あなたも」
権力による統制というのは、
実に恐ろしものだ。
文明化の大義名分のもと、
国が本来守るべきはずの
自国の伝統文化までつぶしにかかる。
さて、
    「大地に深く強く根を張った大樹は、
     よく嵐に耐えうる。
     われわれが根を養わずに、
     大樹は生き残れるか?」
ソーンのこのセリフにある「大樹」とは、
いったい何を指しているのだろう?
「伝統文化」とも取れるし、
「国家」とも取れるし、
もっと大きな意味での一般論とも取れる。
いずれにせよ、
急進的な現政権の方針に対する
批判には違いない。
一本の木が、大樹に育つまでの時間は
どれくらいだろう?
数十年、数百年、あるいは……。
そして、その大樹を守り続けるには、
肥沃な大地と継続的な水が必要だ。
「伝統文化」であれ、
「国家」であれ、
大樹に値する物の価値とは、
つまりは、そういうこと。
大樹とは、「時間」と「継続」の結晶である。
新しい苗を植えるのは構わない。
ただ、苗を植えるときに、
すでにそこにある大樹を
むやみやたらと切る必要があるだろうか?
    「大地に深く強く根を張った大樹は、
     よく嵐に耐えうる。
     われわれが根を養わずに、
     大樹は生き残れるか?」
ソーンのこの問いに対する答えは、
言わずもがなだろう。
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●編集後記             
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本作「風の前奏曲」は、
ソーンの一生を描いた物語ではありますが、
一方では、ラナート奏者の対決を通じて、
ラナートという伝統楽器の魅力を、
伝える音楽映画でもあります。
(意外とエンターテインメント色強めです)
ところで、日本における伝統楽器とは、
どういうものでしょうか?
琵琶とか、尺八とか、琴とか、鼓とか……?
いずれにせよ、今の私たちにとって、
身近なものではありません。
文明化によって、
「伝統文化」という大樹を切ってきたのは、
おそらく日本も同じなのでしょう。
ふと周りを見渡したとき、
「大地に浅くしか根を張っていない木」
つまりは、
「嵐にとても耐えられない木」
ばかりの世界が広がっていたら、
それはとても寂しいことだと思います。
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■銀幕をさまよう名言集! No.45「風の前奏曲」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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