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No.51「アイデン&ティティ」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.51  2009.8.2発行 
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2003年/日本 「アイデン&ティティ」より
主人公の中島は、
バンドブームに乗って
メジャーデビューしたバンドのギタリスト。
ファンからも支持されて、
順風満帆のように思えたが、
中島はいろいろと悩んでいた。
「世間に迎合する音楽」と
「自分が本当にやりたい音楽」の挟間で。
中島がやりたいのは後者だ。
レコード会社の言いなりではなく、
自分の音楽をやりたい。
それが本心だ。
ところが中島には、
「才能で勝負できる!」
という絶対的な自信がなく、
創作活動に行き詰まる。
この映画のなかで、
中島はこう独白する。
     「中産階級に生まれ、
      不良でも優等生でもなく、
      ふつうに生きてきた。
      ディラン(ボブ・ディラン)のように
      旅に出る必然もなかった。
      それがぼくのコンプレックス。
      ロックに対するコンプレックス。
      だからぼくの作る歌にはウソがある」
中島は言葉を締めくくる……
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     「不幸なことに、不幸なことがなかったんだ」
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ロックという創造行為にとって、
心の「渇き」はとても重要だ。
のどが渇いていればいるほど、
人は「水が飲みたい!」と渇望する。
それと同じで、
何らかの心の「渇き」が、
音楽を創造する原動力となるからだ。
のどが渇いていなければ、
「水が飲みたい!」とは思わないだろう。
     「不幸なことに、不幸なことがなかったんだ」
この独白の意味は、
のどを渇かしておきたいにも関わらず、
豊富に飲み水が用意されていたということだ。
満たされた環境にいるということは、
ロックな創造をするうえでは、
やはりマイナスポイントなのだろう。
だから、
     「ぼくの作る歌にはウソがある」
と中島は自覚しているのだ。
でも、だ。
中島にロックを志す資格がないかといえば、
そうではないと思う。
なぜなら彼は、
     「それがぼくのコンプレックス。
      ロックに対するコンプレックス」
とも自覚しているからだ。
そう。
コンプレックスもまた
心の「渇き」のひとつであり、
ロックという創造行為の原動力になりうるのだ。
ロックな創造をしたいなら、
コンプレックスを隠したり、
克服したりするのではなく、
コンプレックスを武器(=渇き)に
してしまったほうがいい。
痛々しいコンプレックスを含め、
その人がその人自身を
ありのままに表現できるようになったとき、
初めて人の心を動かす創造が
できるはずだから。
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●編集後記             
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15年ほど前に(1994年)、
ボブ・ディランの来日公演に行ったことがあります。
彼の演奏は自由気ままでした。
弾き語りではなく、
バンドスタイルでの演奏でしたが、
おそらくバンド内における演奏の決まり事は最低限。
基本的には彼の気の向くままに
即興で演奏が行われていました。
間奏や後奏がやたらと長く、
その間、ディランは、
いつも客席に背を向けてしまいます。
MCらしいMCもなく、
派手な演出もなく、
まるで客が目の前にいることに
気づいていないかのように、
自由気ままにギターを弾き、
あの独特なダミ声で、
ぶっきらぼうに歌っていました。
1992年に行われた
ディランのデビュー30周年を
記念したコンサートの際には、
ステージ上に
彼をリスペクトするアーティストが勢揃いしましたが、
そのときでさえ、
彼は極めて不機嫌そうに、
歌を歌っていました(笑)。
「過去の人」扱いしたお祭り騒ぎが嫌だったみたいです……。
還暦パーティの席で、
主賓がすねるようなものです(笑)
その自由さ、反骨精神たるは相当なもの。
常に渇き続けている希有な人物であり、
ゆえに「ロックの神様」と呼ばれているのでしょう。
今回紹介した「アイデン&ティティ」は、
みうらじゅんの自伝的コミックを、
俳優の田口トモロヲが初監督した作品です。
脚本は宮藤官九郎が担当しています。
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■銀幕をさまよう名言集! No.51「アイデン&ティティ」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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