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「アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵」

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2006.8.13
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今秋公開の「アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵」の試写。
監督・脚本:パスカル・トマ 原作:アガサ・クリスティー「親指のうずき」 脚本:フランソワ・カヴィリオーリ、ナタリー・ラフォリ 出演:カトリーヌ・フロ、アンドレ・デュソリエ、ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、ローラン・テルジェフ、ヴァレリー・カプリスキ、ベルナール・ヴェルレイ、アレクサンドラ・スチュワルトほか 上映時間:105分 配給:2005仏/ハピネット
ミステリーの大家、アガサ・クリスティーの没後30年にあたり、名作「親指のうずき」が待望の映画化。
フランスのお屋敷で優雅な生活を送るのは、好奇心旺盛な奥さプリュダンス(カトリーヌ・フロ)と、おっとり旦那さまベリゼール(アンドレ・デュソリエ)。
ある日、祖母が亡くなったという連絡を受けたふたりは、高級老人ホームへ。遺品を整理していると、プリュダンスは、ある風景画に胸騒ぎを覚える。さらに、その持ち主が、同じ老人ホームに住む奇妙な老婦人ローズのものだとわかる。ところが、そのローズはつい最近突然老人ホームから姿を消していた。胸騒ぎを抑え切れないプリュダンスはついに単独捜査の旅に出る…。


ある不可解な失踪事件に起因するミステリーを大黒柱に据える一方で、スクリーンに映し出される多くの映像は“失踪事件”とは、およそかけ離れた美しい風景や、のどかな人々の暮らしぶりなどである。
美しく広がる田園風景、湖畔に建つ豪奢なお屋敷、アンティークな家具、緑と木々に囲まれた高級老人ホーム、オースティン・ヒーレーE3000やルノー・4Cやシトロエン・ドゥ・シー・ボーといったレアなクラシックカー、牧歌的な風景を走り抜ける列車、グラスに注がれるワインやスコッチやコニャック、チフォネリのスーツにエルメスのバッグ…、品格漂うひとつひとつのシーンは、エキゾチックな恋愛映画を想起させる。
また、老夫婦の知的でエスプリ(しばしばブラックユーモア)のきいた会話と、矍鑠(カクシャク)とした立ち居振る舞いに加え、一度走りだしたら止まらない奥さまプリュダンスと、突飛なプリュダンスの行動に終始ふりまわされっぱなしの旦那さまベリゼール…。ふたりの一挙手一投足を見ていると、思わず笑いが込み上げてくる。
洗練された人々の優雅な暮らしぶりに、のどかな町の風景、何げなく交わされる軽妙な会話、(怪しいけれど)どこかにくめない登場人物たち…。失踪事件の背景に、一見平和そうな日常と多種多様な趣がちりばめられているのは、アガサ・クリスティーならではの特徴なのだろうか。
申し訳ないことに、それらの美しい風景や魅力的な会話、あるいは、味のある調度品ひとつひとつにまで気を取られていると、つい、この作品がミステリーであることを忘れそうになる。
だから、という訳でもないのだが、ミステリーとしてのプロットは、気の利いたバックグラウンドの演出ほどに冴えてはいない。謎を解くカギとなる点と点はスムーズにつながり、ふり返れば伏線もあるのだが、全体としては、可もなく不可もなく、「なるほどー」という思いだけが残る、いわゆるB級ミステリーの塩梅…。
とはいえ、「ミステリー=謎解き」という一元的な楽しみではなく、ユーモアあり、社会風刺あり、冒険活劇あり、悪意&邪推あり、奥深い夫婦愛ありという、深みのある文学作品風に仕立てた手腕は、広い視野と豊かな想像力を併せもつアガサ・クリスティー、そして彼女の世界観を十二分に理解するパスカル・トマ監督の面目躍如。品格とエスプリのきき具合からすると、知性と遊び心を兼ね備えた年配者に喜ばれそうな作品である。

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