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「オール・ザ・キングスメン」

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2007.4.6
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4月7日より公開される映画「オール・ザ・キングスメン」の試写。
原作は実話をもとにしたストーリーで、1946年にピュリッツアー賞を受賞した同名小説。
監督・製作・脚本:スティーヴン・ゼイリアン 原作:ロバート・ペン・ウォーレン 出演はショーン・ペン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレット、アンソニー・ホプキンスほか 上映時間:128分 配給:2006米/ソニー
正義と悪、愛情と憎悪——相反するようでありながらも、実は同じ屋根の下に住んでいるモノたちの姿を描いた、見ごたえのあるヒューマンドラマ。


下級役人から州知事に成り上がった政治家ウィリー(ショーン・ペン)と、新聞記者で、のちにウィリーの側近として働くジャック(ジュード・ロウ)を軸とした物語。
後ろ盾を得て州知事選挙に出馬したウィリーだったが、自分が当て馬であることを知らされてからは、用意された演説原稿を破り捨てて、民衆に向けて自分の言葉で語りはじめるようになった。腐敗政治や裕福層に牙をむいた情熱的な演説は、労働者や貧困者の心をまたたく間に鷲づかみにし、結果、ウィリーは州知事選挙に勝利した。
一方、ウィリーに好意的な記事を書いていたジャックは、ステレオタイプな態度の会社の方針とソリが合わずに退社。ウィリーの側近として働くようになる。
庶民の支持を勝ち取ったウィリーだったが、州知事に就任して以来、少しずつ権力の欲(汚職、愛人スキャンダルetc.)に染まっていき、ついには、みずからの謀略の結果として、ある取り返しのつかない事件に巻き込まれてしまう……。
というあらすじ。
腐敗政治へと傾倒していくウィリーだったが、一方では庶民への公約は果たしていた。道路を作り、教科書代をタダにし、労働力を生み出した。
さて、彼は正義だろうか、悪だろうか?
それは、“正義を生み出す悪の存在”を、あなたは認めますか、認めませんか? という問いでもある。
おそらく、YESと答える人、NOと答える人、さまざまだろう。
つまり、ウィリーという政治家は、ハッキリとした白でも黒でもなく、限りなくグレーな存在なのである。
この作品の見どころは、そんなグレーな存在を、ウィリー本人をクローズアップするだけでなく、ウィリーに翻弄されるジャックの視点からも浮かび上がらせているところにある。
ウィリーを常に見守り続けてきたジャックは、ウィリーというグレーの霧に包まれながら、徐々に、迷いや悩み、葛藤を大きくしていく。
そして、心を振り子のように揺らした末、ジャックはかつての初恋相手や、父親代りの人物を裏切るというカタチで、みずからもグレーゾーンに身を投じることになる。
何が彼をそこまでさせたのだろうか?
答えのひとつは、ウィリーという政治家を観察することで見えてくる。彼は独裁者である(いい悪いは抜きにして)。かつてのヒトラーが、あるいは身近な小泉純一郎がそうであったように、彼は、強力なリーダーシップの持ち主であり、また、演説のプロ(芸術家)でもある。
庶民と同じように、元新聞記者という冷静な目を持ったジャックもまた独裁者・ウィリーに酔いしれていた。本人としては一線を引いているつもりだったのかもしれないが、実際には、かなり早い段階から、ウィリーの手のひらの上で転がされていたのだと思う。
と同時に、ジャック自身の個人的な憎悪や嫉妬が、彼が終盤にとった行動の引き金になっていることも忘れてはいけないだろう。
正義から悪が生まれ、愛情から憎悪が生まれる。その逆も然り。
そうした相関をウィリーとジャックの人生を通じてじわじわとあぶり出していくことにより、この作品は、一筋縄ではいかない人間の内面と社会構造の複雑さに迫っている。善や愛情を過大に評価するでも、悪や憎悪を過剰に否定するでもなく。
そして、集約的なテーマを投げかけてくる。
“必要悪”をどのように考えますか? と。
答えは、観客一人ひとりが導き出せばいいし、導き出せそうになければ、ムリに導き出す必要もない。
ただ、この映画に描かれている“必要悪”の結果として、何人の命が殺められたかについては、考える必要があるだろう。
つまり、その“悪”が本当に“必要”だったのかどうかということ。
感情論ではなく、厳然たる事実として。
ショーン・ペンの熱演と、ジュード・ロウの目ヂカラ。ふたりの“らしさ”は出ていたし、脇を固めるキャストも豪華にして巧者。さらにクラシカルなライティングで彩りを加えた映像の美しさもひっくるめて、映画的な完成度は高かったように思う。
ただ、原作の字面を追いすぎているのか(?)、あるいは演出の方向性のせいなのか、全体的に平面的で印象に残りにくい作品になっていることも事実。人間の本質を扱っているにもかかわらず、心を奥深くからえぐりとられるような鋭さに欠け、心でなく、頭で考えさせさせてしまう点に、この映画の若干の弱さがあるようにも思えた。

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