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「図鑑に載ってない虫」

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2007.6.10
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6月23日より公開される映画「図鑑に載ってない虫」の試写。
監督・脚本:三木聡(「イン・ザ・プール」、ドラマ「時効警察」) 主題歌:ナイス橋 出演:伊勢谷友介、松尾スズキ、菊地凛子、水野美紀、岩松了、ふせえり、松重豊、笹野高史、三谷昇、渡辺裕之、村松利史、片桐はいり、高橋恵子ほか 上映時間:103分 配給:2007日/日活
感動の押し売りもどうかと思うが、笑いの押し売りもかなりツライものがある。
そんな思いにかられた103分。


フリーライターの俺(伊勢谷友介)は、「月刊 黒い本」の美人編集長(水野美紀)から、死後の世界をルポするために“死にもどき”なるものを探せと依頼された。俺は、たいして気乗りしないままに、相棒のエンドー(松尾スズキ)と途中で知り合ったリストカットマニアの女サヨコ(菊地凛子)と一緒に“死にもどき”を探す旅に出るが……。
と物語を書くのも億劫になるほど、ドーデモいい内容だ(苦笑)。シーンはただただ三木聡の笑いを描くために用意された私有物で、物語に深い意味などなければ、人物を入念に描くような気配もナシ。まあ、それはそれで構わないが、時代がいくら三木監督の脱力ワールドを賛えようとも、ここまで笑いに“あざとさ”を感じる作品に、肩入れする気持ちにはなれない。
103分のあいだに仕掛けられた笑いのタネはいくつあっただろう。一分間にふたつと見積もっても二百強、いや、体感的にはもっと総攻撃をくらった気がする。
もちろん、思わずクスっと笑ってしまう場面もあるのだが、それも最初の三十分がいいところ。やがて笑いのパターンがマンネリ化していき、見るに堪えられなくなっていく。
この作品のミソは、ひとクセふたクセある変人が次々と登場してくる点なのだが、奇人や変人やキテレツ野郎が出てくるたびに、笑いの“あざとさ”が増殖していくありさま。人の話をスルーしたり、逆ギレしたり、物語とはあえて無関係な珍妙ネタをかましたり……と、手を替え、品を替えで(が、いくつかの定型化したパターンに収まっている)連打しまくる。
常識にとらわれない演出は評価に値するが、それもやはり程度問題。無料で垂れ流されるテレビ番組なら許されても、劇場にわざわざ足を運び&お金を払う善意の客に見せる作品としては、いささか自意識が過剰すぎはしないだろうか?
変人たちのあざとい行動や言動に対して、この物語で唯一まっとう(?)な人物として描かれている主人公の俺が、「なんでだよ!」「ふさげんなよ!」的なツッコミを入れまくりながら、物語は進行していく。すべて時間と空間がドーデモいい小ネタで敷き詰められているため、“死にもどき”とは何なのか? このあと一体ドウナルの? という物語の核心に対する興味も冷めていく一方……。
三谷幸喜監督の映画を例にとると、「ラヂオの時間」は傑作だが、「有頂天ホテル」は凡作である。なぜ凡作かと言えば、「ラヂオの時間」が大まじめに物語を描いているの対し、「有頂天ホテル」には、笑いを取ろうとする “あざとさ”が目につきすぎるから。それが傑作と凡作の違い。「図鑑に載ってない虫」の“あざとさ”は輪をかけてひどい。もちろん、笑いの感性とツボは人それぞれではあるが……(そもそも個人的には「時効警察」より「特命係長 只野仁」派)。
“あざとさ”も、観客に気づかれないほど巧妙であれば、才能の類なのかもしれないが、ユルい笑いだかなんだか知らないが、三木監督は確信犯的に“あざとさ”を見せまくる。それを強制的に受け止めさせられる客は、不憫を通り越して不幸でさえある。
先日(4月21日)、鈴木則文監督が1972年に撮った「徳川セックス禁止令 色情大名」のニュープリントを観賞した(@シネマヴェーラ渋谷)。このお馬鹿なネーミングからどれだけのアホアホ映画かと思いきや、これが驚くほどの娯楽傑作であった(アホアホではあるが…)。
ストーリーは——いい大人になってからセックスの楽しさに目覚めた殿様が、自分よりセックスを楽しんでいる庶民をねたんで、セックスを禁止する法令を発布する——というアホアホ指数120%(当社比)の展開なのだが、この破天荒な物語のために用意された時代劇セットや衣装は、歴史超大作でも撮ろうかというくらい本格的だし、アホアホなストーリーを成立させるべく大まじめに演じるキャストの根性も、涙ぐましいほど素晴らしかった。
人を笑わせるためには、くだらないことをここまで大まじめにやらなければいけないのかと、目からウロコが落ちた。そのクソまじめさから時折こぼれ落ちる“滑稽さ”のなんとも可笑しいことよ……。約35年前に作られた映画を見ながら満員の客席から爆笑が起きる。考えてみればスゴイことである。
——要するに「図鑑に載ってない虫」の登場人物には、物語に対する誠意やまじめさが欠落している。そのうえに、登場人物のアクがもともと強すぎるため、そこから笑いのウマ味成分である“滑稽さ”がこぼれ落ちてこない(ハナっから滑稽なため)。加えて、メリハリがなく一本調子。内輪ノリの学芸会もいいところだ。
……などと書けば、イマドキの笑いが分からぬカタブツは困ったものですなあ、などとこれまたユル~く一笑に付されそうだが、自分の感性を守るためにも、これだけは言っておかねばなるまい。
「図鑑に載ってない虫」は、あざとい笑いで飾り立てた自己満足コメディの極み! 三木聡ファンでなければ、苦痛を覚悟しておくべきである!
百歩譲って、ひとつの映画に二百や三百の笑いのタネを仕掛けたことは快挙だとしても、そんなタネも観客の笑いをとれなければ“死に体”も同然。しかも、自分ひとりで空回りするだけならカワイイものだが、この作品には、この笑いのセンスについてこれますか? 的なニオイがプンプンしており、周囲に同調することで孤立を回避しようとする人間の心理さえ巧みに利用しているフシがある。おおー、くわばらくわばら…。
チラシの隅に書かれている<禁断のコメディ>という文言は、悪い意味で、言いえて妙である。

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