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「オフサイド・ガールズ」

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2007.8.26
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9月1日より公開される映画「オフサイド・ガールズ」の試写。
第56回ベルリン国際映画祭の審査員特別賞・銀熊賞を受賞作。監督・製作・編集はイランの俊英・ジャファエル・パナヒ。脚本はジャファエル・パナヒ、ジャドメヘル・ラスティン、出演はシマ・モバラク・シャヒ、サファル・サマンダール、シャイヤステ・イラニ、Mキャラバディ、イダ・サデギほか。
サッカーが国民的スポーツとして人気のイランでは、女性が男性のスポーツをスタジアムで観戦することは法律で禁止されている。が、イラン代表のW杯出場のかかった大事な一戦をなんとしてもスタジアムで見たい少女たちが、男に変装してスタジアムに潜入を図った……!


これまでにも社会に異議を唱える作品を撮り続けてきたというパナヒ監督が、またしても自国で公開許可をもらえない作品を撮った。実際の試合会場で撮影されたという物語は、熱狂する観客の姿と歓声を盛り込むことで、ドキュメンタリー風に仕立てられているのが特徴だ。
警備をする兵士に変装を見破られて、次々とスタジアム裏に特設された柵の中に入れられる少女たち。“スタジアムで試合を見たい”のに、法律で“スタジアムで試合を見ることができない”——まさかこんな法律を施行している国があるとは……驚きだ。
ただ、面白いことに(といっては失礼だけど)、兵士に捕まった少女たちに悪びれた様子は見受けられない。すきさえあらば脱走を図る気満々だし、兵士に悪態はつくわ、懇願はするわ、逆ギレはするわで、とにかくエネルギッシュ。そんな彼女たちのホンネは——
「日本の女の子たちはスタジアムのなかで観戦していたのに、どうして私たちはだめなの?」
——というセリフにも表れている。
そう、彼女たちの疑問は単純にして明快なのだ。
そして、この至極的を射たこの疑問に対し、兵士が答えに窮するところに、この法律のウサン臭さが表れている。
この法律の施行理由は「スタジアムで飛び交う男たちの下品な言葉の暴力から女性を守るため」らしいのだが、これが本当だとしたら何ともムチャクチャな話だ。 “男たち”が原因と分かっていながら、そのツケを女性がくわされるという不条理さ。冷静に考えれば笑止千万なこの法律が、彼女たちにとって“ありがた迷惑”以外の何ものでもないことは、火を見るより明らかだ。
この映画の巧いところは、こうした不条理な法律に対して、シリアスに異義を突き付けるのではなく、あくまでも「試合を観戦したい!」という少女たちの純粋な気持ちにフォーカスし、なおかつユーモアを盛り込みながら物語を進展させている点にある。法律に対するまっすぐな批判よりも、その滑稽さをあぶり出されるほうが、イラン政府としては何倍もイタイはずだ。
はじめは口うるさかった兵士たちが、彼女たちのパワーに押され、しだいに寛容になっていく流れは、不条理な法律の行く末を示す暗示のようでもある。そしてまた、彼女たちを警察へと移送する道中、兵士が少女たちにある種の恩赦を与えるラストシーンは、(一見ほほ笑ましく笑えるシーンながら)この法律の実質的な敗北を意味してさえいる。
欲を言えば、物語の幹はデンとあるのだが、あまりに枝葉がなさすぎるため、ややしつこい印象を受けてしまうのが玉に瑕。ワンテーマのゴリ押しも悪くはないが、何らかのサブストーリーをからめて全体のバランスを図ってもよかった気がする。
クソ真面目なドキュメンタリーとも、壮大な感動物語とも、死ぬほど笑い転げるコメディとも違い、ほどよくりユーモアを交えながら、イラン代表の試合裏にあった少女たちの物語にスポットを当てた本作「オフサイド・ガールズ」。歴史に残る大作かといえば決してそうではないが、パナヒ監督が、自国の不条理な法律を告発しようと頑張った姿勢は、着実に世界の人々と(まだ上映許可は下りてないものの)自国の人々の心をとらえるだろう。
スタジアムに乗り込もうとしたすべての少女たちの勇気が、いつの日か報われることを願いたい。

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