山口拓朗公式サイト

「フライボーイズ」

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2007.11.5
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11月17日より公開される「フライボーイズ」の試写。
監督:トニー・ビル 製作:ディーン・デヴリン 音楽:トレバー・ラビン 出演:ジェームス・ブランコ、ジャンレノ、マーティン・ヘンダーソン、ジェニファー・デッカー、タイラー・ラビンほか 上映時間:138分 配給・2006米/プレシディオ
1016年、アメリカは戦況が激化する第一次世界大戦に参戦せずに静観をきめ込んでいた。そんな折、テキサス在住のローリングスは、映画館で見たニュース映画で戦闘機パイロットの活躍を知り、海の向こうのフランスを目指した。フランスのラファイエット戦闘機隊には、同じくアメリカからやって来た仲間たちがおり、彼らと一緒にパイロットになるための訓練を開始した……。


モチーフは実在したラファイエット戦闘機隊。ライト兄弟が人類初の有人飛行を成功させてからわずか10年。彼らはアメリカ人として初の戦闘機パイロットであった。
アメリカ人である彼らが何ゆえ他国におもむいて戦争に参加したのか、その動機の描き方はあまり鮮明とはいえないが、正義感と同時に、彼らに“空への憧れ”があったと考えることは、不自然ではないだろう。当時の“空は”現代の“宇宙”といったところか? いや、それ以上の重みを持っていたかもしれない。そんな空を一度でいいから飛んでみたいと思うのは自然なことだろう。
本作は、飛行機乗りの物語であり、メッセージありきの戦争映画の類ではない。
ただし、見どころといえば、やはり戦闘シーンなのだ。
クルマを運転する方であれば、高速道路を走行中に窓を開けると、体感速度や恐怖心が増すことはご存知だろう。
第一次世界大戦当時の飛行機は、オープン・コクピットである。そんな彼らが、羽を羽がぶつかりそうになるほどの至近距離で闘うシーンは迫力満点だ。
作りも粗雑で危なっかしく、スピードもノロい当時の戦闘機は、コンピュータ制御された高速旅客機に慣れ親しんでいる現代人からすると、信頼性ゼロのプラモデルのようなものである。飛行機とはいえ、実質的には生身の人間が宙に舞っているようなもので、事実、勝負においても、(戦闘機の能力ではなく)パイロットの能力が勝敗を大きく左右したという。
超高速戦闘機同士がやり合うということは、今の戦争ではめったにないことだが、当時はまさしく空中戦。敵の戦闘機に銃砲の狙いを定め、引き金を引くという闘い方だ。パイロット同士の目が合うこともあれば、ある戦闘シーンでは、手にした拳銃で敵をしとめるシーンもあった。
空中戦で拳銃? 
にわかには信じがたい当時ならではの光景である。
人間と人間が顔を突き合わす当時の空中戦は“最後の騎士道”と呼ばれているという(命を削る者同士、相手への敬意を抱いていたゆえ)。おそらくは、その後、戦闘機の性能が向上し、オープン・コクピットでなくなったころから、戦争は、見えない敵との“実感なき戦い”という不気味なものに進化したのだろう。
本作「フライボーイズ」は、そうした映画史的にも珍しい第一次世界大戦の空中戦をできるだけリアルに描きながら、パイロットとしての成長や仲間との友情、戦争に対する悲観と風刺、それにうるさくない程度のラブロマンスをほどよく織り交ぜている。ドラマとしては、やや優等生じみているきらいはあるものの、最後まで“飛行機乗りの物語”というピントをズラさなかったため、ありがちな美談には収斂していない。
空中から見下ろすフランスの大地がとても美しい。
ふと思う。
彼らも本音では、“戦争”という使命を取り除いたありのままの姿で、その景色を眺めたかったのではないだろうか、と。
空を飛ぶというロマンと、そのロマンあふれる空で人を殺めなくてはならない非情さ。そのギャップの狭間でパイロットたちが何を感じ、何に悩み葛藤したのか、その気持ちに寄り添えるだけでも、この映画を見る価値はある。航空機ファンや戦闘機ファンであれば、戦闘機の再現性のレベルをたしかめてみるのもいいだろう。

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