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映画批評「PEACE BED アメリカVSジョン・レノン」

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2007.11.9 映画批評
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ジョンレノンの命日、12月8日公開の「PEACE BED アメリカVSジョン・レノン」。
製作・監督・脚本:デイヴィッド・リーフ&ジョン・シャインフェルド 日本語監修:オノ・ヨーコ 出演&スタッフ:オノ・ヨーコ、ジョン・ウィーナー、ロン・コーヴィック、アンジェラ・デイヴィス、ジョン・シンクレア、タリク・アリ、ボビー・シールほか 上映時間:99分 配給:2006アメリカ/ザナドゥー
ビートルズが単なるアイドルバンドでないことは言うまでもないだろう。アイドルバンドどころか20世紀を代表するロックバンドである。彼らはシングルをリリースするたびにエポックメイクな楽曲構成やサウンド、それに斬新な録音スタイルを披露し続けた。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4つの才能が融合したこのバンドの魅力は、彼らが常に進化し続けていたこととも無関係ではなかったように思う。


そうした進化するバンドにおいて、進化の度合いがもっとも激しかったのがジョン・レノンではないだろうか。彼の書く歌はビートルズの後期以降、深みと鋭さが増していく。哲学的でもあり、政治的でもあり、詩的でもある彼の楽曲は、ビートルズというバンドの進化さえも凌駕していたことは、彼がリリースするソロの楽曲がその証左である。彼の曲からは、人間の深みを、人生の深遠を、この世の真実を見つめようと、がむしゃらに音と言葉を紡ぎ上げてきた様子がうかがえる。
泥沼のベトナム戦争が彼に与えたものも大きかったのだろう。彼にとって“反戦”と“平和”は避けて通ることのできないテーマになっていた。
やがて彼の進化はミュージシャンの枠にも収まらなくなり、平和を希求するひとりのメッセンジャーとして活動を開始する。彼の活動は永遠の同志、オノ・ヨーコとの出会いにより加速度的なものとなっていく。明確な反戦歌が増え、またマスコミでの発言もより鋭いものへと変化していった。
このドキュメンタリーは、そんなオノ・ヨーコが、「タブロイ誌的な興味本位ではなく、すべてをありのままに伝える映画なのです」とお墨付きを与える作品だ。ミュージシャンとしてのジョン・レノンというよりは、平和活動家としての側面をクローズアップしている。
私見になるが、ドキュメンタリーというのは、真実ではなく、ひとつの作品だと考えている。“編集”という作業が入るものはすべて作品だ。ニュースも新聞も雑誌もノンフィクションも。真実めいているからこそ多分に危ういという言い方さえできる。
ただ、そうした作品のなかに、真実に近いものを描いているかもしれない、と思わせるものがあることは事実だろう。残念ながら、この作品がその類に入るか否かは断定できないが、よしんばプロパガンダ的な側面をもっていたとしても、ジョン・レノンの思考の一部をひも解くという役割を果たしているだけに、それ以上は望むまい。
彼は歌やマスコミに対する発言のみならず、さまざまなパフォーマンスでも反戦を唱え続ける。オノ・ヨーコと1週間ベッドで抱き合う「平和のためのベッド・イン」、袋をかぶれば、人種、性別、年齢などの偏見は取り去られ、スムーズにコミュニケーションできるという「バギズム」、トイレットペーパーを国旗として掲げる架空国家「ヌートピア」など、彼は明らかに自分のスター性を利用して反戦運動を行った。
歌で反戦を唱えるミュージシャンは少なくないし、“ミュージシャンはあくまでも音楽で表現するべき!”というポリシーをもつ者もいるだろう。
しかしながらジョンは、平和活動としてより効果の高い方法を考え、実行していく人間だったように思う。それが先に挙げたパフォーマンスの数々なのだが、はた目には、それまで彼を支持してきたファンに見切りをつけられてもおかしくないほど、過激で急進的なパフォーマンスといえなくもない。
それでもジョンは、パフォーマンスをやめる気配を見せない。戦争や権力者の横暴に真っ向から戦いを挑むためには、圧倒的なインパクトが必要だと考えていたのかもしれない。
このあからさまな反戦パフォーマンスは、体制側から目の上のこぶと見なされ、ジョンはFBIから尾行や盗聴を受けるまでになる。「ジョンの活動によって反戦ムードが高まると、ニクソン大統領が再選できなくなる」という当時の政権上層部の見方は、本作のタイトルになっている「アメリカVSジョン・レノン」を象徴するものだ。そして、最終的に彼は国外退去処分を受けるまでになる。ジョンは身近な人に、「たとえ自分の身に何かが起きてもそれは偶然ではない」と言っていったという。
彼ほどの人気者であれば、スーパースターの座にあぐらをかき、南の島にでも移住し、ときおり黄色い声援を受けながらミュージシャンとして一生を過ごすこともできただろう。
ところが、ジョンはその座に甘んじるどころか、自由な生活を脅かされ、一部のファンから見放され、命さえ付け狙われる境遇を覚悟しながらも、反体制と反戦を唱え続けたのである。世界中にもっともインパクトのある方法で“平和”というメッセージを投げかけるために。その信念の強さは、このドキュメンタリーのなかでジョンが何をしゃべり、何を訴え、どう行動したかを見れば、瞭然である。
本作「PEACE BED アメリカVSジョン・レノン」は、ジョンにまつわる数々の秘蔵映像に、当時の彼を知る関係者のインタビューや、当時の世情を織り交ぜるカタチで構成されており、全編にわたりジョンの楽曲をあてはめている。
彼の歌はシンプルながらもメッセージ性が高く、それでいて美しさを秘めている。
名盤『ジョンの魂』に収録されている「ワーキング・クラス・ヒーロー(労働者階級の英雄)」「悟り」「ラヴ」「ゴッド(神)」といった、まさしくジョンの魂が歌い上げた名曲の数々はもちろん、“だれもいってくれなかった、こんな時代が来るなんて”と歌う「ノーバディ・トールド・ミー」、“だけど僕らが言っているのは<平和を我等に>これだけさ”と歌う「GIVE PEACE A CHANCE(平和を我等に)」、“母さん死にたくないんだ、あぁ、いやだ、あぁ、いやだ、あぁ、いやだ”と歌う「I Don`t Wanna Be A Soldier Mama I Don`t Wanna Die(兵隊にはなりたくない)」、それに政治的スローガンを掲げて“民衆に力を!”と歌う「パワー・トゥ・ザ・ピープル」、さらには『ジョン・シンクレア支援コンサート』で歌われた「アッティカ・ステート」、不朽の名曲「イマジン」、そして、世にも美しい反戦歌「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」——。
本作で流れる21曲は、ジョンが遺した平和に対する祈りである。エンディングには、ジョン・レノンが、ジョン・レノン&オノ・ヨーコandザ・プラスティック・オノ・バンド名義で発表した最後のシングル曲「インスタント・カーマ」が採用されている。オールド・ロック調のサウンドのうえで断末魔よろしくシャウトするジョンの声は、後世に何かしらのクサビを打ち込もうとしているかのようでもある。
彼は歌う。
“俺たちはみんな輝いているのさ  月や星や太陽みたいにね!”
2007年も残り50日あまり。今年も街には「ハッピー・クリスマス」が流れるだろう——
今宵はクリスマス
弱い人たち 強い人たち
金持ちの人たち 貧しい人たち
世界はこれでいいとは思わないが、
ともかく ハッピークリスマス
肌の黒い人たち 白い人たち 
黄色い人たち 赤い人たち
近しい人たち 愛しい人たち
さあ、この辺で争いはやめようじゃないか…
——この歌声が聞えたら、一瞬でもいいから、心の平和に感謝しようではないか。
平和のために戦い続けたひとりの男のために。


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