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「迷子の警察音楽隊」

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2007.11.23
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12月22日より公開される「迷子の警察音楽隊」の試写。
監督・脚本:エラン・コリリン プロデューサー:エイロン・ラツコフスキー 撮影:シャイ・ゴールドマン 美術:エイタン・レヴィ 編集:アリク・ラハヴ・レイボヴィッツ 音楽:ハビブ・シェハデ・ハンナ 出演:サッソン・ガーベイ、ロニ・エルカベッツ、サーレフ・バクリ、カリファ・ナトゥール、イマド・ジャバリンほか 上映時間:87分 配給2007:イスラエル・フランス
今年のカンヌ国際映画祭で絶賛され、ある視点部門で「“一目惚れ”賞」「国際批評家連盟賞」「ジュネス賞」を受賞。本国イスラエル・アカデミー賞でも作品賞を含む8部門を受賞。第20回東京国際映画祭では「東京サングランプリ(最優秀作品賞)」に輝いた。
演奏のためイスラエルに訪れたエジプト警察音楽隊だったが、何かの手違いで、空港に出迎えが来ていない。自力で目的地を目指すも、砂漠のなかにある寂しい町にたどり着いてしまった。まさしく“迷子”の一行は、町の食堂の美しい女主人ディナの好意に甘え、翌朝までホームステイすることになった……。


人と人との交流を、大げさなストーリーや講釈を挟むことなく、静的なスタンスで紡ぎ上げた良作である。
飛び交う言葉は、英語、フランス語、ヘブライ語。言葉の壁を越えた交流。もちろん、それもひとつのテーマではあるが、それだけではない。彼ら(イスラエルとアラブ諸国)のあいだには、文化的、歴史的な問題がある。そうした壁に隔てられた両者が突発的に一夜を共にするという設定は、興味本位な見地からすると、大きな見どころである。
結論を言うと、そうした言語、文化、歴史的な違いウンヌンではなく、人と人の交流というのは、なるほどこういうものなのかもしれない、ということを、この作品は教えてくれる。
きっと国や文化や歴史といった大局的なことを考えながら日々の生活を送っている人などひと握りなのだろう。ひとつ屋根の下で一夜を共にすれば、お互いのちょっとした言葉やしぐさや表情に反応しあいながら、人間は心と心を通わせていく。この映画に登場する彼らのように。
人間の共通の話題は、国や文化や歴史に先んじて、愛や友情や家族であるということ。そうした核となるテーマが、登場人物たちの極めて個人的なエピソードを通じて語られる。
「迷子の警察音楽隊」というタイトルから、彼ら音楽隊の演奏がイスラエル人の感動を誘い、両者間の緊張やわだかまりが消えていき……めでたくハッピーエンド! などという安易な流れを予想すると、見ごとに裏切られる。
音楽はたしかにこの作品のキーワードであり、愛や友情や家族と同様に、彼らを結びつける共通言語として機能しているが、主人公は「音楽」ではなく、あくまでも「人」である。
盛り上がりも、泣きの別れも……大胆な装飾は何一つ施されていない。だが、カクジツに、彼らにとって記憶に残る一夜を作り上げることに成功している。
監督は新人のエラン・コリリン。洗練されたユーモアや映像感覚を含め、その落ち着き払った(新人らしからぬ)采配ぶりには、舌を巻かざるを得ない。
いくつか描かれている交流のなかでも、無口な警察音楽隊の隊長と、食堂の美しい女主人の交流が、実に甘美だ。ナニもない。ホントにナニもない。にもかかわらず甘美なのは、そこに、瞬間沸騰する刹那的な男女の激情とは比べ物にならないほど深い、心と心のシンクロナイズがあるからにほかならない。
イスラエルとアラブ諸国の不幸な歴史というのは、おそらく、日本人が簡単に理解できるものではないのだろう。がしかし、何の接点もないと思われた登場人物たちが一夜のあいだに心と心を通わせたように、生きる世界そのものが違う日本人が、この映画のもつ普遍的な温度を感じとることも、不可能ではないだろう。
小さな町の小さな一夜を描いた本作「迷子の警察音楽隊」は、人間の交流をさり気ない筆致で描いたヒューマンドラマである。ドラマ的な起伏よりもリアリティに徹した作りは好みの分かれるところかもしれないが、行間を読み取るような作品を好む方には、ぜひともオススメしたい。

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