「ボーン・アルティメイタム」
2007.12.6
公開中の「
監督:ポール・グリーングラス 原作:ロバート・ラドラム(角川文庫刊) 音楽:ジョン・パウエル 出演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、デヴィッド・ストラザーン、ジョーン・アレンほか 上映時間:115分 配給:2007米/東宝東和
記憶をなくした元CIAの暗殺者ジェイソン・ボーンが、みずからの過去をひも解きながら逃亡を続ける人気ヒット・シリーズの第3作。
CIAの都合によって命をつけねらわれるジェイソン・ボーン。彼の写真が新聞の一面に掲載された。記事を書いた記者のロスは、ボーンが関与していた極秘計画「トレッドストーン」に替わる新計画「ブラックブライアー」の取材に熱心だった。記憶をひも解くヒントを得ようとボーンはロスに接触を試みるが、ロスはすでにCIAにマークされていて……。
『ボーン・アイデンティティー』『ボーン・スプレマシー』を含めた『ボーン』シリーズとは、平たく言えば、CIAとボーンの手に汗握る追跡&逃亡劇である。ハリウッド映画の追跡&逃亡劇など山ほどあるはずなのに、この作品は並外れてスリルと緊張感がある。
その理由のひとつには、主人公ボーンの(超人的ながらも)実直なキャラクター設定にある。元暗殺者というおぼろげな記憶を、なんとか呼び起こそうと、彼は自分の過去の秘密に積極的にアクセスを試みる。ただ、記憶が戻れば戻るほど、自分の冷徹な暗殺者としての素性が見え、ボーンは葛藤を深めていく。記憶をなくして人間を取り戻したボーンが、殺人マシンと化していた過去の自分と向き合う。そのせつなさと悲しみが、物語を一種独特な雰囲気で包み込んでいるのだ。
また、幾度となく訪れるボーンとCIAの対決シーンも見ごたえ十分だ。ITを駆使したCIAのボーン包囲網は、ドラマ『24』も顔負けのスピード感がウリだ。盗聴も盗撮もメールの傍受も、暗号の解読も、スナイパーの配置も、刺客の手配も完璧すぎるほど完璧。どんなに細かい情報でも、ひとたびCIAスタッフがPCをたたけば、数秒後にはモニターに表示される。これには最強の元暗殺者ボーンも戦々恐々で、世界中をワールドワイドに渡り歩きながらも、常にCIAに監視されているような緊張感を強いられる。
がしかし、それに輪をかけてスゴイのがボーンである。とくにとっさに訪れる危機的状態における状況判断能力がずば抜けており、圧倒的な数的不利、状況的不利を一瞬にしてアドバンテージに変えてしまう。その元最強暗殺者にふさわしい鍛え抜かれた頭脳&戦闘術&ファイトぶりは、見る者にカタルシスを与える。飛び道具はほどほどに、あくまでも接近戦の格闘で敵をなぎ倒す。それでいながら、決して熱くなりすぎず、常にクールに脳を回転させ、相手の数手先、裏の裏のさらに裏までを読んでいる。CIAも最強ならばボーンも最強。その頂上戦が面白くないはずがない。
しかも、その対決シーンを、ときに揺れ、ときに横に流れるカメラワークと、細かいカット割りを駆使して、臨場感満点に演出している。ワールドワイドな展開を生かしつつ、それぞれの攻防戦では、舞台となる都市(スペインのマドリッド、モロッコのタンジール、ニューヨーク等)の特徴を生かした絵作りをしている点もオツである。
いかにも犯罪者ヅラな一部CAI上層部のマフィア的な思考(邪魔者はすべて殺す!)に起因する勧善懲悪の構図がベタすぎるとか、ボーンがあまりにもスーパーマンすぎるとか、ツッコミどころを挙げたらキリがないが、このドライブ感満点の展開を前に、うだうだ&ちまちまとしたツッコミなど無用だろう。
徹頭徹尾エンタテインメント。ハリウッドの魅力爆発のサスペンスアクション映画である。前2作をチェックのうえご観賞のほど。
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