山口拓朗公式サイト

「天安門、恋人たち」

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2008.7.28
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公開中の「天安門、恋人たち」を鑑賞(試写)。
監督・脚本:ロウ・イエ 出演:ハオ・レイ、グオ・シャオドン、フー・リン、チャン・シャンミン、ツゥイ・リンほか 上映時間:140分 配給:2006中、仏/ダゲレオ出版
1987年の中国。北朝鮮との国境付近の町で、父とふたりで暮らしていた娘ユー・ホンのもとに、大学の合格通知が届く。故郷を離れ、北京の大学の寮で暮し始めた彼女は、友人から魅力的な青年チョウ・ウェイを紹介される。ふたりが恋に落ちるまでに時間はかからなかった……。


ハタチ前後の多感な時期ならではの“理屈”が、“本心”を抑え込み、みずから恋人との関係を複雑にしていく主人公のユン・ホン。熱を帯びたラブストーリーは、典型的な青春恋愛映画のそれだが、肝心な“本心”をセリフとしてあまり多く語らせないことにより、メロドラマのなかにも、文学的な含みをもたせている。
とはいえ、自身の運命にあえて“悲劇”を添加するかのような行動に出るユン・ホンに感情移入するのは至難の技だ。彼女のナイーブかつストイックな性格は、近くにいる人でさえ理解しにくいものであり、たとえ、そこに酌量されるべき事情があったとしても、“本心”を“理屈”で抑え込んだ行動は、人に誤解を与え、自分自身をおとしめるだけだ。
つまり、青年チョウ・ウェイが、ユン・ホンの“本心”に触れることができないのと同様に、観客にとってもユン・ホンは(作品を理解するうえで)手ごわい相手であると言わざるを得ない。ふたりが10年後に再会を果たすクライマックスで、チョウ・ウェイがユン・ホンに対して取った行動は、ユン・ホンが、長きに渡って自分の“本心”を抑え込んできたことに対する報いにほかならない。
一方、そうした恋物語の背景に、天安門事件を頂点とする民主化運動の熱気にむせかえる激動の時代を従えることにより、この作品は大きなドライブ力を手にしている。「変化する時代(国)」と「多感な時代(個人)」を確信犯的にオーバーラップさせることであぶり出されるものは、“現状の混沌”と“その混沌から生まれる不安”だろうか。
また、中国ではこれまで採り上げられることのなかった(タブー視されていた)天安門事件を扱うほか、アンダーヘアまで見せる過激なSEX描写を随所に挟むなど、この映画は、未だにさまざまな問題を抱える中国に対するあからさまな挑発を含んでいる。
しかも、本作に対して「技術的な問題がある」と理由付けしたうえで、中国国内での上映禁止と監督の5年間の表現活動禁止という処分が下されたというから、2008年現在の中国における民主化のレベルは推して知るべし。監督の提起した問題が、実際のカタチとして現れるという皮肉な結果には、苦笑を禁じえない。
男女の恋愛の悲運を、激しさを増す当時の民主化運動と“対”で見せることにより、観客に、ありきたりのロマンスとは一線を画す独特な感想を抱かせる本作「天安門、恋人たち」。自分自身の気持ちに翻弄され続ける主人公や、2時間10分の長丁場をひたすらシリアスで染め上げた作風に対する好き嫌いは分かれそうだが、中国史上初となる全裸SEXシーンに挑戦した主演のハオ・レイの大胆さと繊細さを兼ね備えた演技は、高い評価を得て然りである。

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