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「アクロス・ザ・ユニバース」

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2008.8.7
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8月9日より公開される「アクロス・ザ・ユニバース」の試写。
監督・原案:ジュリー・テイモア 原案・脚本:ディック・クレメント イアン・ラ・フレネ 出演:エヴァン・レイチェル・ウッド、ジム・スタージェス、ジョー・アンダーソン、ボノほか 上映時間:131分 配給:2007米/東北新社
1960年代のニューヨーク。一度も会ったことのない父親を探すために渡米した英国青年のジュードは、そこで知り合った友人の妹ルーシーと恋におちる。ところが、そんなふたりは、ベトナム戦争の激化に伴って変革を迫られつつあった時代に翻弄されて……。


ブロードウェイ・ミュージカル「ライオンキング」の演出家が手がけたミュージカル映画。
混沌とする60年代のアメリカを舞台に、イデオロギーや思想のうずにのまれながら青春時代を送る若者たちの姿を描いた物語だ。
折しも、ベトナム戦争への反発が強まり、それまでの価値観とはまったく異なる価値観が生まれようとしていた時期でもある。
若者たちがくり広げる物語は、本人が意識するしないにかかわらず、時代背景と密接にリンクしている。ビザなしでアメリカに乗り込む主人公、大学や親の価値観に抵抗する友人、反戦活動に染まり行く恋人……。混沌とした社会情勢のなかで、アイデンティティを模索する若者たちの姿は、まさしく60年代の象徴で、彼らは、戦争に、イデオロギーに、夢に、現実に、翻弄される。
ただし、そうした物語は、この映画を構成する要素のほんの一部でしかない。
最大の見どころは、全編を彩る33曲の歌とBGMをすべてビートルズの楽曲で統一している点にある。不朽の名曲の数々は、さまざまにカタチでアレンジし直され(ときに大きくデフォルメされ)、十分な存在感をもって観客のもとに届けられる。
通常、映画のBGMといえば、物語に見合ったものを作ったり、借りてきたりするのがセオリーだが、本作に関しては、完全にビートルズの楽曲ありき。つまり、ビートルズの楽曲を並べて、その詞の意味を咀嚼しながら物語を紡ぎ上げるというプロセスを踏んでいるのだ。斬新な試みといえよう。
また、その斬新な試みを補完する映像が、実に凝っている。作家性を強くプッシュしたそれは、好き嫌いこそ分かれるだろうが、鮮やかな色彩とイメージの断片を集めたかのようなコラージュ風のビジュアルに、視覚と脳を心地よく刺激させられる観客も少なくないだろう。
もちろん、手法が斬新なだけに、観る人によっては、その斬新さがそのまま欠点となりうる可能性もある。とくに、ストーリーを重視する人にとっては、全編にちりばめられた“遊び心”をどこまで許せるかによって、この作品に対する評価は大きく変わるだろう。そういう意味でも、本作「アクロス・ザ・ユニバース」は、カクジツに見る人を選ぶ作品ではある。
作品から一貫性のあるメッセージを受け取るという類いのものではないが、並々ならぬ手間ひまをかけて、<映像と音楽>さらには<ユーモアとアイロニー>のコラボレーションを実現した手腕は、凝った演出でスペクタルな世界観を作り出したミュージカル「ライオンキング」の生みの親ならではの面目躍如といえるだろう。
熱心なビートルズファンであれば、随所に挟み込まれたビートルズの楽曲に対する細かいオマージュを見つけ出してみるのも楽しいかもしれない。
エヴァン・レイチェル・ウッドやジム・スタージェスたちの吹き替えなしの歌声にも賛辞を贈るよりほかない。そして、U2のボノが出演するというスペシャルトピックスも見逃せない。

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