「ハンコック」
2008.8.29
明日公開される「
監督:ピーター・バーグ 脚本:ビンセント・ノー、ビンス・ギリガン 製作:ウィル・スミス 出演:ウィル・スミス、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・ベイトマンほか 上映時間:92分 配給:2008米/ソニー
ハンコックは超人的なパワーの持ち主。彼は人助けをするときでも、みずからのパワーを抑制することができず、街をズタボロにしてしまう。その“やりすぎ”が原因で街の人に嫌がられていたハンコックだったが、ある日、レイという宣伝マンから、好感度を上げるためのサポートをしたいとの申し出を受ける……。
最大の見どころは、人気のウィル・スミスが嫌われ者のヒーローを演じている点だろう。
主人公のハンコックは、ウィル・スミスが、「幸せのちから」(06年)や「アイ・アム・レジェンド」(07年)で披露してきた役柄とは異なり、酒好きで、ちょっぴり自堕落で、キレやすい——というアウトロー的存在。人の良さや正義感がにじみ出ていたこれまでの路線とは一転の趣だが、ウィル・スミスといえば、もともと役者よりラッパーとしてのキャリアが先。つまり、ダークでダーティな世界は、実はホームグラウンドだ。その証拠に、本作での彼の姿には、新しさと同時に、板についているなあ、と思わせるものがある。
物語はかなり大味なアクション・コメディだ。トンデモなく怪力なハンコックが、街の人々を助けながらも、あちらこちらで甚大な物的被害を与えるくだりは、映像的に見物だし、自分に向けて「クズ!」という言葉を吐いた人間に対して容赦なく制裁を加えるあたりも(映像的に)笑える。
こんなヤツいんのか! 素直にそこを楽しめばいい。
ただし、オスカー女優のシャーリーズ・セロンが扮するメアリー(レイの妻)が、ある話を始めたあたりから、物語に妙なシリアスさが混ざり、展開が急速に失速。しかも、その背景が思わせぶりなわりに説得力に乏しく、観客の気持ちを置いてきぼりにする。
その後は、前半の勢いが影を潜め、ハンコックが時折くり出すギャグも不発気味。ハンコックとメアリーがやり合うキッチンのシークエンスまでのテンションがなかなかだっただけに、そこから大きく舵を取ったこの展開には、ちょっぴりクエスチョン。好みの問題もあるかもしれないが、この展開に持ち込むのであれば、もう少し脚本と伏線に練り込みが必要だったと思う。
ただし、そんな微妙な展開も、ウィル・スミスとシャーリーズ・セロンという実力派のふたりが持ち前の演技力でカバー。もちろん、このトモデモなく怪力なハンコックというオリジナリティヒーローを生み出した点については、そのアイデアとチャレンジ精神に賞賛を送らねばなるまい。
メガホンをとったのは、戦争や闘争のジレンマを深く掘り下げた秀作「キングダム/見えざる敵」(07年)のピーター・バーグ監督。前作とはまたずいぶん毛色の異なる作品に挑んだものだが(アクションという類似点はある)、本作「ハンコック」には、前作ほど心に広がる残留物が少なかったのが残念だ。
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