「GSワンダーランド」
2008.11.14
11月15日より公開される「
監督・脚本:本田隆一 プロデューサ・脚本:永森裕二 主題歌:ザ・タイツメン 出演:栗山千明、石田卓也、水嶋ヒロ、浅利陽介、温水洋一、ケンドーコバヤシ、大杉漣、高岡蒼甫、武田真治、杉本哲太、岸部一徳ほか 上映時間:100分 配給:2008日/デスペラード
小さな音楽プロダクションを営む梶井(武田真治)に、マサオ(石田卓也)たちのバンドはスカウトされる。ところが、レコード会社が用意していたのは、オルガンを必要とする楽曲だったため、梶井は、けん盤が弾ける歌手志望のミク(栗山千明)を男装させて、メンバーに加える。こうして「ザ・ダイアモンズ」改め「ザ・タイツメン」のデビューが決まったが……。
舞台は今から約40年前。当時一世を風靡したGS(グループ・サウンズ)を題材にした青春映画だ。主人公たちが組むバンド「ザ・タイツメン」の——大げさな言い方をすれば——“栄枯盛衰”を描いている。
ブームというのは哀しいかな、それがブームであると認知された時点で、すでに衰退に足を踏み入れていることがほとんど。文化としての定着を考えた場合には、むしろブームでないことのほうが重要なのかもしれない、と思わせる事例が少なくない。
本作「GSワンダーランド」は、そんなブームと大人社会に翻弄される若者たちの物語だ。音楽業界に身を置く大人たちにとって、彼らは“商品”以外のなにものでもない。メンバーの性別を偽装させ、嫌がるその足に白いタイツをはかせ、戦略性満点の歌を歌わせる……。優先すべきは目先の利益。ましてや、メンバーの将来を真剣に考えようとする者など皆無だ。
そうしたシビアな大人&業界の事情を、この映画はユーモアをもって描き上げる。とりわけ、レコード会社の重役が出席する会議でのやり取りは、誇張した演出も功を奏し、観客から大きな笑いを引き出す。“数字”がすべての企業論理と、“上司”が絶対のサラリーマンのサガ……そこに皮肉をたっぷりと込めたシーンだ。
一方、憎たらしいライバルバンドやゴシップ系カメラマンなどが登場する展開は、オリジナリティに乏しいことこの上なし。バンドが最後に演奏する1曲に至っては、ライバルをむりやり出し抜いてのもの。これではメンバーに拍手を送ろうという気分になれない。
そもそも“日劇に出演したい”というメンバーの目標設定にも共感しづらいものがある。華やかな世界への憧ればかりが先に立ち、「大好きな音楽でメシを食うんだ!」という一途さや本気さが感じられない。モチベーションが「高校の文化祭」レベルにしか見えないのは致命傷だ(そんな彼らがデビューできたこと自体が不思議なのだが……)。
大人たちの身勝手な事情を前に、彼らの葛藤や反抗が思った以上に少ないことも、結果として、青春映画としてのカタルシスを弱めている。主人公が最後に自宅の部屋で“あるモノ”をカバンに詰めるシーンにさほど重みが感じられないのは、そのためだ。
……という欠点はさておき、洋楽と歌謡曲をブレンドしたかのようなGS特有のサウンドが聴けるのは、本作「GSワンダーランド」の大きな魅力だ。当時のGS世代であれば、懐かしさ満点だろうし、若い世代なら、当時のファッションも含めて「こんな時代もあったのか」と興味をそそられるだろう。
音楽シーンの歴史のなかでは、完全に一過性のブームとしてその命を終えた観があるGS。歴史に埋もれた、そうしたいちブームに目をつけたまでは良かったが、なにぶん子供じみた脚本が悔やまれる1本だ。
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