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「ラ・ボエーム」

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2009.2.12
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2月14日より公開される「ラ・ボエーム」。
監督・脚本: ロバート・ドーンヘルム 撮影: ヴァルター・キンドラー 衣装: ウリ・フェスラー 出演:アンナ・ネトレプコ、ローランド・ビリャソン、ニコル・キャンベル、ジョージ・フォン・ベルゲンほか 上映時間:118分 配給:2008独・オーストリア/東京テアトル、スターサンズ
舞台は19世紀半ばのパリ。ボヘミアン詩人のロドルフォ(ローランド・ビリャソン)とお針子のミミ(アンナ・ネトレプコ)は、クリスマスイブの夜に恋に落ちる。ふたりは芸術家仲間に囲まれながら、貧しくも希望に満ちた暮らしを送るが、ミミは不治の病を患っており……。


イタリア・オペラ界を代表する天才プッチーニの名作オペラ「ラ・ボエーム」がスクリーンに登場。“現代最高のドリームカップル”と賛えられるローランド・ビリャソンとアンナ・ネトレプコが、主人公のミミとロドルフォに扮する。
全編にわたり、オペラ界を代表する歌手たちの美声とプッチーニの偉大な楽曲が堪能できる。多くの日本人にとってオペラはなじみの薄いものだが、この一流の<音楽家×歌手>がタッグを組んだ「ラ・ボエーム」は、オペラの入門編として格好だろう。実際のオペラはチケット代が高すぎる……とお思いの方にもまた。
1896年の初演以来、113年間にわたって世界中で愛されてきた演目は、余計なエピソドを削ぎ落とした極めてシンプルな物語。テーマも「若者たちの希望と挫折」という普遍の王道。観客はリラックスしながら、豊かな音楽にその身と心を委ねればいい。
個人的に好きなのは「ラ・ボエーム」の出だし。真冬のパリの屋根裏部屋。そこで将来を夢見る詩人や画家、哲学者、音楽家など、まだ名もない貧乏芸術家たちが集まり、冷えきった部屋をあたためるくだりだ。(貧乏で)暖炉に火さえ灯せないなか、ロドルフォが詩を書き留めた紙を燃やして暖をとるのだ。「世界にとって損失だ」とうそぶきながら。
名もなく、金もなく、部屋を暖める術さえないボヘミアンたち。だが、彼らには、そうした状況を笑い飛ばすだけの夢とユーモアがあり、そして仲間がいた。金では買えないモノを持つ彼らに(それなりに金を持つ)日本の大人たちは、不思議とうらやましさを感じるかもしれない。
ミミのロドルフォに対する大胆なアプローチや、活気のあるクリスマスイブのカフェでくり広げられる男女の駆け引き、しんしんと降る雪のなかで決意する不条理な別れ、そして、懐かしい屋根裏部屋での再会……。舞台感覚の大枠でくくられた4つの場面のなかに、妖艶にしてエモーショナルな楽曲と歌が放り込まれている。
「僕は詩人で、あなたは詩そのものだから」——そんな歯の浮くようなセリフが言えるのは、若者ゆえの特権であると同時に、歌ゆえの特権でもある。話し言葉にはできなくとも、歌にはできる。それは歌のもつ魔力のせいだが、その魔力はオペラという独特な歌唱法によってことさらに強調される。
記憶違いでなければ、ある1カ所を除き、全編フルオペラ(セリフにもメロディがつけられている)でくり広げられる本作「ラ・ボエーム」は、世界最高峰のオペラ歌手をキャスティングした本格的なオペラ映画。オペラに少しでも興味のある方にとっては、一見ならぬ一聴の価値がある。
ちなみに、1996年初演の「レント」は、本作「ラ・ボエーム」をベースに、舞台をニューヨークの若者の街、イーストヴィレッジに置き換えたロック気分満点のミュージカルだ。2005年にはクリス・コロンバス監督の手によって映画化(のちにDVD化)されている。テーマは同一ながら、雰囲気がガラリと異なる両作品を見比べてみるのもおもしろいかもしれない。

お気に入り点数:70点/100点満点中

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