山口拓朗公式サイト

「三国志」

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2009.2.13
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2月14日より公開される「三国志」。
監督・脚本:ダニエル・リー アクション監督:サモ・ハン 撮影:トニー・チャン・トンリョン 美術:ホレス・マ・コン・ウィン 音楽:ヘンリー・ライ 出演:アンディ・ラウ、マギー・Q、サモ・ハン、ヴァネス・ウー、アンディ・オンほか 上映時間:102分 配給:2008年中国/プレシディオ
魏・呉・蜀の三国に分断されていた戦乱期の中国。平民の家に生まれた趙雲(アンディ・ラウ)は、祖国統一の夢を叶えるべく同郷の平安(サモ・ハン)と共に蜀の君主・劉備(ユエ・ホア)に仕えていた。あるとき、劉備の妻と子どもが魏軍に連れ去られると、趙雲はたったひとりで敵陣へ乗り込み……。


三国志を描いた話題作といえば「レッドクリフ」だが、「レッドクリフ」が三国志を鳥瞰でとらえた作品だとすれば(とはいっても膨大な三国志の物語のほんの一部を切り取ったにすぎないが)、本作「三国志」は趙雲という人気キャラクターを虫瞰でとらえた作品だ。
趙雲を英雄として描く姿勢が徹底している。頭脳明晰で武道に優れ、正義感と使命に忠実。勇敢で義に厚い無欠の男(しかも甘いマスク!)。武士道精神が廃れゆく日本において、趙雲のビシっと一本筋の通った生き方は、ほとんど絶命危惧種か天然記念物のようなもの。観客の「かくありたい」という目標領域をゆうに越え、羨望のまなざしを送るよりほかない精鋭ぶりだ。
英雄を描くに際して、三国志の舞台を拝借した作品ともいえよう。それは、趙雲と運命を共にする平安という架空の人物を登場させたことや、敵対する魏軍に曹嬰というこれまた架空のヒロインを配置した点にも明らかであり、この映画のエンターテインメント作品としての立ち位置がうかがえる。随所に分かりやすいナレーションが挟まれるため、三国志に不案内な人でも迷子になることはないだろう。
見どころをひとつ挙げるなら、鉄の意志を持つ趙雲が、晩年に人生観を揺さぶられるシーンだ。天下統一を希求しながらも夢叶わぬまま年老いた逍雲が、虚無感に襲われ、一瞬だけ人間らしい弱さを見せる。あるいはそれは、信じていたものが蜃気楼だと分かった瞬間だったのか……せつないシーンだ。が、それでもなお信念を貫くべく彼は馬上の人となる。やはりこのヒーロー映画は徹底している。
人生の隆盛期にあたる時期を一瞬でワープする展開はさすがに趣に欠けるが、序盤に小さなエピソードを丁寧に積み重ねたおかげもあり、それ(ワープ)によって趙雲に対する感情移入が削がれることはない。ただし、サモ・ハン演じる平安のキーマンとしての役どころがあまりにも見え見えで、反面、魏軍の曹嬰にまつわるドラマがおざなりで中途半端だ。それでも全体的に引き締まった印象を受けるのは、趙雲を演じたアンディ・ラウの演技力の賜物だろう。長槍にこだわった趙雲の殺陣を含め、アクション満載の合戦シーンも見ごたえがある。
果たして本作「三国志」は三国志ファンのお眼鏡にかなうものなのか? ——それは分からないが、動乱期に生きた英雄の高潔な精神の物語としてみれば、それなりにカタルシスを感じさせてくれる作品だ。

お気に入り点数:60点/100点満点中

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