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「ワルキューレ」

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2009.3.18
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20日より公開される「ワルキューレ」。
監督:ブライアン・シンガー 脚本:クリストファー・マッカリー&ネイサン・アレクサンダー 編集・音楽:ジョン・オットマン 出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、テレンス・スタンプ、トム・ウィルキンソン、エディ・イザードほか 上映時間:120分 配給:2008米.独/東宝東和
第二次世界大戦末期。ドイツのシュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)は、ナチス総統ヒトラーによる独裁政権のやり方に絶望し、ヒトラーの暗殺計画を企てる。彼はみずから立案した<ワルキューレ作戦>の首謀者として、クーデターを成功させるべく着々と計画を進めるが……。


ナチス・ドイツに対するレジスタンスの活動を描いた映画は枚挙にいとまがないが、この映画は、ドイツ軍内部の反ヒトラー派によるクーデターを描いた珍しい作品。残虐行為を受けるなどした被害者がナチスに抵抗するのと、軍内部にいながらに反旗を翻すとでは、その意味合いは大きく異なる。1943年に実際にあったというこのクーデターは、当時のナチス・ドイツが、決して一枚岩ではなかったことを裏付ける貴重な内容だ。
シュタウフェンベルク大佐は、密告の恐怖、失敗したとき受ける制裁等のリスクにひるむことなく、大胆かつ綿密に計画を進行させる。家族をも巻き添えにする可能性を承知しながらも、信じる正義と良心のために、己に課した使命をまっとうする。「ハイル、ヒトラー!」というナチス式敬礼にまつわるシュタウフェンベルク大佐の態度は、彼のかたくなな反骨精神の表れだ。
<ワルキューレ作戦>自体も大きな見どころだ。ヒトラーを暗殺するだけでなく、政権転覆直後に、国の操舵権を確実に奪取しようというシナリオをもつこの奇策は、ドラマとして大きな緊張感を生む。暗殺計画から計画実行に至るまでのスリリングな展開は、これが史実だという意識も相まって、(ヒトラーの末路を知っているにもかかわらず)手に汗を握らせる。
おもしろいのは、作戦が成功するか否かのカギを通信が握っている点だ。ヒトラーもメディアや通信を巧みに活用した人物として知られているが、<ワルキューレ作戦>では「電報」や「電話」が重要な役割を担う。事実、電報所の「ある判断」が、このクーデターの局面を大きく変える。クーデター直後に、反乱者サイドが通信網の掌握に成功していたならあるいは……と思わせる展開。歴史の転換点の紙一重ぶりに、運命の綾を感じずにはいられない。
監督と脚本はサスペンスの名作「ユージュアル・サスペクツ」のコンビだが、その実力は歴史作品のなかでも遺憾なく発揮されている。ハリウッドきってのスター(トム・クルーズ)の存在が、作品を優等生な雰囲気に染めすぎた観は否めないが、一方で、彼の存在感ゆえに保たれた秩序や緊張感もあったように思う。ケネス・ブラナーやテレンス・スタンプ、トム・ウィルキンソンら豪華な陣容が老練な演技で脇を固めたことも、この作品には幸運なことであった。
ドイツ人を除く多くの人にとって初耳であろう暗殺計画<ワルキューレ作戦>という題材を、ハリウッド一流のスタッフとキャストが、エンターテインメントという鍋で煮立てた本作「ワルキューレ」。血なまぐさい悲劇を、サスペンスとアクションを織り交ぜながらドラマチックに描いた大胆さや、ドイツ語圏の話を悪びれることなく英語でやり切った不敵さを含め、よくも悪くもハリウッドらしさ満点の作品といえよう。

お気に入り点数:65点/100点満点中

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