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「デュプリシティ スパイは、スパイに嘘をつく」

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2009.5.1
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本日公開の「デュプリシティ スパイは、スパイに嘘をつく」。
監督・脚本:トニー・ギルロイ 撮影:ロバート・エルスウィット 美術:ケビン・トンプソン 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード 出演:クライヴ・オーウェン、ジュリア・ロバーツ、トム・ウィルキンソン、ポール・ジアマッティ、デニス・オヘア、トーマス・マッカーシー、キャスリーン・チャルファント、ウェイン・デュバルほか 上映時間:125分 配給:2009米/東宝東和
バーケット・ランドル(B&R社)社とエクイクロム社は、お互い存在や動向が気になって仕方がない同業者。B&R社が新製品を開発したという情報を得たエクイクロム社のCEOディック(ポール・ジアマッテ)は、スパイのエキスパート集団を雇って、B&R社に諜報員を潜入させる。そんなスパイ集団に新しく加わったのは、元MI6の諜報員レイ(クライヴ・オーエン)と元CIAの諜報員クレア(ジュリア・ロバーツ)。実はレイとクレアとは、今から5年前にドバイで出会っていた……。


スパイものといえば、政治や軍、警察、それに裏社会がらみが定番だが、この物語の舞台は企業だ。
ビジネスの世界では、「競合他社に業績で大きく水をあけられる=自社の致命傷」となりかねない。CEOともなれば、メンツにかかわる非常事態だ。そこで勃発するのがライバル企業同士の「諜報合戦」というわけだ。崇高な企業理念などどこ吹く風、敵を出し抜くためには何でもアリというオソロシイ現実が、この映画には描かれている。
そんな企業ドラマの一方で、男女ふたりのスパイの運命をユーモアたっぷりに描いたのが本作「デュプリシティ スパイは、スパイに嘘をつく」だ。お互いに惹かれ合うレイとクレアだが、スパイの“性(さが)”が災いし、哀しいかな、相手を心の底から信じることができない。会うたびにくり返される疑心暗鬼に根ざしたふたりの駆け引きは、スクリーンを見守るこちらとしても、どこまでが本音なのか皆目見当がつかない。
ひと通り腹のなかを探りあったあとに、決まってラブラブモードに突入するおふたりさん。いちいちご苦労な話だが、スパイを本職とする彼らにとっては、受け入れなければならない試練といえる。あるいは、そのスリルがふたりの恋を燃え上がらせているのでは? と重度のワーカーホリックを勘ぐりたくさえなる。
もちろん、締めるところは締めるあたりが、マット・デイモン主演の「ボーン」シリーズで脚本を手がけたトニー・ギルロイの才腕。軽めのラブロマンスを交えつつも、スパイ映画としての軸は失わず、一転二転と物語を転がし、ほぼ破綻なくラストのどんでん返しまでもっていく。
手に汗握る経済ドラマとも、コテコテのラブコメとも、シリアスなスパイ映画ともどこか違うが、全体を見渡すと、そのどれもが盛り込まれているというクロスオーバー的なエンターテインメント作品だ。ただし、複雑に見せすぎたストーリーに加え、ふたりの関係において劇的な(決定的な)エピソードが見られないため、作品の輪郭がややぼやけてしまったのは残念だ。
ひとつ見逃せないのが、B&R社とエクイクロム社のCEO同士が格闘する冒頭のシーンだ。いい年こいた、いや、いい地位にあるお偉いさんが、子供のけんかさながらにバトルする様子を、スローモーションを多投してつぶさに映すカメラの心憎いこと(ポール・ジアマッティとトム・ウィルキンソンの頑張りに注目!)。熱い勝負のゆくえは、その目でお確かめあれ。

お気に入り点数:60点/100点満点中

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