映画批評「ターミネーター4」
2009.6.8 映画批評
6月13日公開の「
監督:マックG 脚本:ジョン・ブランカート、マイケル・フェリスほか 撮影:シェーン・ハールバット 美術:マーティン・レイング 編集:コンラッド・バフ 音楽:ダニー・エルフマン 出演:クリスチャン・ベイル、サム・ワーシングトン、アントン・エルチン、ブライス・ダラス・ハワード、ヘレナ・ボナム=カーター、コモンほか 上映時間:114分 配給:2009米/ソニー
2018年、核戦争後の荒廃した地球では、核戦争で生き残った人類と、スカイネット擁する機械軍が死闘をくり広げていた。人類軍のリーダーとして頭角を現し始めていたジョン・コナー(クリスチャン・ベイル)は、スカイネットの一網打尽を画策していたが、コナーの父親となる運命のカイル・リース(アントン・エルチン)が、スカイネットに捕われたことを知り……。
世界に衝撃を与えた「ターミネーター」(84年)と、革新的な映像と深みのある人間ドラマでファンを魅了した「ターミネーター2」(91年)で確固たる人気を確立した、ジェームズ・キャメロン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の傑作エンターテインメント大作。監督が交代して12年ぶりに製作された「ターミネーター3」(03年)は、ドラマ性が薄く評判を落としたものの、さらに6年の時を経て、このたび「ターミネーター4」が製作された。
これまでの3作品が、核戦争前(「審判の日」以前)の地球を舞台にしていたのに対し、本作「T4」では、核戦争後の荒廃した地球を舞台にしている。2018年はもちろん未来だが、こと「ターミネーター」シリーズにおいては、未来こそが原点、ビギニングの世界である。
従来の「ターミネーター」シリーズの魅力は、未来で製造された機械が、人間の姿をして現代の地球に忍び込むという設定にあった。100%機械でありながらも、観客に「サイボーグ的な人間」という錯覚を起こさせた点に、映画としてのおもしろさがあった。また、機械が人間に化けることで生ずるターミネーターたちの微妙に不自然な挙動や、人間の体躯に不釣り合いな超絶パワーが、いい意味でユーモアに変換されていたため、恐ろしいターミネーターになぜか愛着を感じたりもした。
ところが、舞台を核戦争後に移した「T4」では、設定上、前述した魅力のほとんどを放棄しなければならなくなった。登場するターミネーターは、「トランスフォーマーか!」っと突っ込みたくなるほどむき出しの機械である。もちろん「T4」の舞台は、「T-800=シュワルツェネッガー型」の前身となる「T-600」時代につき、理屈的に齟齬があるという訳ではないが、観客に「サイボーグ的な人間」という錯覚を抱かせられなくなった時点で、シリーズとしての魅力は失われた。
また、今回ジョン・コナー役に「ダークナイト」(08年)のブルース役でブレイクしたクリスチャン・ベイルを起用しているが、残念ながら、肝心なキャラクターが十分に掘り下げられていない。「T4」におけるコナーは勇猛果敢な指導者そのものだが、あまりにシリアスなその言行が、頼りなささえ感じさせた「T3」のコナーと重ならないのである。そういう意味では、「ごく普通の人間」が「人類の救世主」へと変化していくプロセスこそを、「T4」では描くべきだったかもしれない。
唯一、マーカス・ライト(サム・ワーシングトン)という謎の男にまつわるサブストーリーが、それなりに期待を持たせてくれたが、この男の存在意義も結果的には不明瞭で、終盤のオチも製作者の自己満足ぶりがはなはだしいご都合主義。終わって見れば、一連のエピソードそのものが、どうにも深めようのない「T4」の世界で、2時間(上映時間)もたせるための“駒”だったと気づかされる。
ひたすら続くハードな戦闘シーンにも辟易した。シリーズへのオマージュとなるカーチェイスはいいとしても(追跡型ターミネーター「モトターミネーター」は見どころ!)、戦闘機や大型武器に頼ったど派手な攻防戦の半分以上は不必要なものだ。その代りに、ターミネーターらしい個人レベルの粘着質な闘いを増やすなり、コナーやリースにまつわる人間ドラマを深めるなりすべきだっただろう。随所にちりばめられた過去3作品へのオマージュの数々は楽しめるが、オマージュはしょせんオマージュ。映画の柱にはなりえない。
この映画のタイトルが「地球大戦争 〜人類vs機械の頂上決戦〜」か何かであれば、骨太のアクションムービーとしてもう少し寛大に評価できたが、「ターミネーター」の名を冠した限りにおいては、厳しい評価を下さざるを得ない。本作「T4」を起点に、新シリーズが第3作まで作られるようだが、内容次第では「これ以上ターミネーターの原点を荒らすな!」という批判が噴出しかねないだろう。
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