映画批評「コネクテッド」
2009.7.31 映画批評
8月1日公開の「
監督・製作:ベニー・チャン 原案:ラリー・コーエン 脚本:ベニー・チャン、アラン・ユエン 出演:ルイス・クー、バービー・スー、ニック・チョン、リウ・イエほか 上映時間:110分 配給:2008香・中/ブロードメディア・スタジオ
舞台は香港。シングルマザーのグレイス(バービー・スー)が、見ず知らずの男たちに突然拉致された。グレイスは監禁先で、壊れた電話の配線をつなぎ、偶然にもアボン(ルイス・クー)という経理マンとの通話に成功。アボンはグレイスを救出しようと携帯を片手に奔走するが……。
アカデミー賞に輝いた「ディパーテッド」(2006年)のように、アジアの作品をハリウッドがリメイクすることは珍しくないが、本作「コネクテッド」は、なんと、香港映画史上初となるハリウッド映画のリメイク作品。オリジナル作品は、キム・ベイシンガーやジェイソン・ステイサムらが出演した「セルラー」(2004年)だ。
結論から言うと、本作「コネクテッド」は、オリジナルを完全に凌駕している。圧倒的なおもしろさだ。相当に自信があったのだろう。潤沢な資金に対する自信、パワフルなアクションに対する自信、緻密なストーリーテリングに対する自信、そして、世界に誇れる実力派キャストに対する自信。あらゆる自信がスクラムを組み、香港イズム満点のエンターテインメント作品が産み落とされた。
携帯電話の特性を活かしたスリリングな物語は、エネルギッシュなアクションと濃厚な人間ドラマの後押しもあり、観客をグイグイと引っ張っていく。なかでもカーチェイスや銃撃戦、高所からの転落、崖でのクルマ宙づりなど、伝統的な香港アクションを満載したスリリングなシーンの数々は、ベタで荒削りながらも、観客を楽しませるツボをよく心得ている。
息子からも“だめパパ”の烙印を押されそうなほど冴えない経理マンのアボンが、正義感にかられて拉致女性の救出に乗り出す物語が痛快だ。銃は撃つわクルマは奪うわで自身も指名手配を受けるが、それでもなお愚直に犯人を追いつめていく姿に、思わずエールを送ってしまう観客も少なくないだろう。
アボンが観客の共感を誘うのは、彼が取り立ててマッチョでもキレ者でもなく、どこにでもいそうな“ヤサ男”だからにほかならない。しかも、妙に人のよさがにじみ出た彼の一挙手一投足が、いちいちユーモラスで笑える。もちろん、そんな頼りなさげな主人公でも、勇気ある決断を下しながら少しずつ強さを身につけていくところに、この映画のカタルシスがあるわけだが。
携帯電話に命を託したサスペンスフルな展開はもちろんのこと、サブストーリーとして編み込まれた親子や刑事のドラマも見どころのひとつだ。と同時に、ネタバレが比較的あっさりしていたオリジナルからもうひと転がしした、クライマックスのどんでん返しも楽しめる。
アジアの実力派を集めたキャストにも注目だ。がむしゃらに奮闘する経理マンを好演した主演のルイス・クーをはじめ、マフィア映画を彷彿とさせる硬派な演技を披露したニック・チョンとリウ・イエ、監禁の恐怖におののくグレイスを怪演したバービー・スーなど、顔ぶれは豪華そのものだ。
飛躍的にアップしたスピード感と熱っぽさに、練り込まれた脚本、見ごたえのある香港アクション、充実のキャスティングと、香港製の研磨剤でオリジナルをまんべんなくブラッシュアップさせた本作「コネクテッド」は、香港映画界がハリウッドに叩きつけた入魂の一撃。110分間、中だるみなく楽しめるサスペンス・アクションとしておすすめしたい。
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