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映画批評「悪夢のエレベーター」

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2009.10.16 映画批評
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公開中の「悪夢のエレベーター」。
監督:堀部圭亮 原作:木下半太 脚本:堀部圭亮、鈴木謙一 撮影:北信康 主題歌:タカチャ 出演:内野聖陽、佐津川愛美、モト冬樹、斎藤工、本上まなみ、芦名星、大堀こういち、小西遼生、池田鉄洋、市川しんぺーほか 上映時間:105分 配給:2009日/日活
痛みとともに目を覚ますと、小川順(斎藤工)は急停止したエレベーター内に閉じ込められていた。非常ボタンは不通、携帯は電池切れ。小川と一緒に偶然乗り合わせていたのは、刑務所帰りの関西弁男(内野聖陽)と、人の心が読める超能力者(モト冬樹)、自殺志望者の少女(佐津川愛美)の3人。時を同じくして小川の妻が陣痛に襲われていた。小川は万が一エレベーターから出られなかったときのことを考えて、ボイスレコーダーに妻への気持ちを残すことにした……。


26万部の売り上げを誇る下半太原作「悪魔のエレベーター」を、映画、ドラマ、バラエティなど幅広いフィールドで活躍する堀部圭亮が初監督して映画化。脚本には「鴨とアヒルのコインロッカー」で手腕を発揮した鈴木謙一の名前もクレジットされている。
スリリングな展開と、軽妙な人間ドラマと、鮮やかな結末をもつ上質のミステリー。全編を貫くコメディ調の演出も魅力にあふれ、テンポよく話を転がしながら、観客を適度に楽しませる。
白眉は緻密に編まれたプロットだ。真実と虚構を巧みに織り交ぜた展開は、メタミステリー的な味付けが、意図的に観客をミスリードさせる装置として機能。いくつかの小さな違和感を除けば、ほぼ破綻のないストーリーに仕上がっている。
「どんでん返し」に重心を置いた作品ながら、登場人物たちのキャラクターが立っているうえ、ユーモアあふれる会話も気が利いている。個性と個性のぶつかり合いに始まり、徐々に、キャラクター個々の「人間味」や「哀愁」を引き出していくしたたかさも、“オマケ”にしては上等だろう。ただし、背景の掘下げを含めて、映画のスケールがおしなべて小さいため、映画に奥深さや豪華さを求める人には物足りないかもしれない。
エレベーターに閉じ込められた4人+マンションの管理人を演じた役者たちが、それぞれに大きな存在感を残すが、なかでも関西弁男に扮した内野聖陽の演技が冴えている。二面性が求められる役どころで、名バイプレイヤーとしての才能を遺憾なく発揮。氏の舞台出身という経歴のアドバンテージも、この密室劇風の作品にうまく活かされている。
ミステリーの分岐点は、中盤に訪れる一度目のどんでん返しだ。このどんでん返しを機に、ドラマは思わぬ方向へと転がり始め、ウソの綻びが新たな綻びを呼ぶ「裏目の連鎖」が展開されるのだが、その一方で、この映画の本筋自体は成就に向けて着々と地固めしていくのだ。ラストのどんでん返しでは、おもいきりニヤリとしていただきたい。
アンフェアな飛び道具を用いることもなく地道に張り巡らされた伏線が好感度「大」。お金をかけずともおもしろい映画が作れることを証明する秀作だ。

お気に入り点数:70点/100点満点中

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