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映画批評「実験室KR-13」

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2009.11.5 映画批評
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11月14日公開の「実験室KR-13」。
監督:ジョナサン・リーベスマン 原作:ガス・クリーガー 脚本:ガス・クリーガー、アン・ピーコック 出演:クロエ・セヴィニー、ティモシー・ハットン、ピーター・ストーメア、ニック・キャノン、クレア・デュヴァルほか 上映時間:94分・PG12 配給:2008米/角川映画=アンプラグド
心理実験に参加するために集まった4人の男女。担当の博士に案内された小さな部屋で彼らは、この実験が、人間の精神と忍耐力の限界を調査するためのものだという説明を受ける。報酬は1日250ドル。実験は4段階に分かれており、1名ずつ脱落者が出るという。説明を終えると、突然、博士が4人のうち1人の頭を拳銃で撃ち抜いた! そして部屋から出て行くとドアにカギをかけてしまった……。一体何が起きたのか? 残された3人の運命は!?


「テキサス・チェーンソー ビギニング」(2006年)のジョナサン・リーベスマン監督がメガホンをとった問題作。密室サスペンス・ホラーとしては、「CUBE」(1997年)や「SAW」(2004年)の系譜を受け継ぐが、その背後にうごめく組織の実態は、軽く受け流すことができないほどリアル。なにせこの映画は、1975年にロックフェラー委員会によってその存在が明らかになったマインドコントロール計画「MKウルトラ」に基づいたドラマなのだから。「MKウルトラ」では電気ショックやLSDを使った恐るべき人間実験が行われていたという。
1人が殺された時点からスタートする実験は、あらすじに書いた通り、実験ごとのノックダウン方式。ただし“脱落”などという生ぬるいものではなく、出された質問の正解に一番遠い人から“抹殺”されるというもの。1日250ドルの報酬と照らし合わせると、世界でもっとも割の合わないアルバイトといえるだろう。
見どころは、「死」のプレッシャーを受ける被験者たちの心理的な駆け引きだ。被験者3人は同じ被害者であると同時に、生き残りをかけて戦うライバルでもある。究極のプレッシャーのなかで、おのずと生存本能に火がつく。自分が生き残るためにはどうすればいいのか? 徐々に増幅する不安と恐怖。誰かが裏切るのではないかという疑心暗鬼。彼らは理性を貫き通せるのか? 信頼と裏切、相反する心理が交錯する被験者同士の駆け引きはスリリングで、最後までテンションが弛緩することはない。
被験者たちの生存競争を描く一方で、映画は、実験者側の視点からもドラマを描き、物語を立体的に見せていく。人間をモルモット扱いするような実験を首謀する組織の目的とは一体何なのか? この日初めて実験場に雇われてきたクロエ・ゼヴィニー扮する美人秀才研修員エミリーの視点を通して、背筋も凍る事実が明らかにされていく。
目の前でくり広げられる実験を目の当たりにして、エミリーが何を感じ、心境をどう変化させていくか。その表情に彼女の本心を探ってみるのも、この映画を見るうえでの醍醐味だ。最後には、実験の結末とエミリーが取る行動の両面から、気持ちいいほどのどんでん返しをくらうであろう。
予測がつかない展開と心理描写の鋭さで観客を魅了する本作「実験室KR-13」は、心理サスペンスが好きな方に自信をもってオススメできる作品だ。ただし、鑑賞後の後味については、そのいっさいを保証しない。各自の責任にてご鑑賞のほど。


お気に入り点数:80点/100点満点中

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