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映画批評「ヴィクトリア女王 世紀の愛」

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2009.12.28 映画批評
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公開中の「ヴィクトリア女王 世紀の愛」。
監督:ジャン=マルク・ヴァレ 製作:マーティン・スコセッシほか 脚本:ジュリアン・フェロウズ 出演:エミリー・ブラント、ルパート・フレンド、ポール・ベタニー、ミランダ・リチャードソン、ジム・ブロードベンドほか 上映時間:104分 配給:2009英・米/ギャガ
1837年のイギリス。ときの国王ウィリアム(ジム・ブロードベント)は病に苦しみ、自身の死を予感していた。王位継承者のヴィクトリア(エミリー・ブラント)はまだ十代で、母から摂政政治を承認するように迫られていたが、これを断固拒否し続けた。そんな折、ヴィクトリアは、ベルギー国王の甥、アルバート(ルパート・フレンド)と出会う。ヴィクトリアは、誠実で公正中立なアルバートに惹かれ、少しずつその距離を縮めていくが……。


19世紀のイギリス皇室の雰囲気をリアルに再現しながら、若き女王ヴィクトリアと青年アルバートの恋愛を描く。あまたの陰謀と政争がふたりに襲いかかるが、ふたりはその都度、手と手を取り合って荒波を乗り越えて行く。身内さえ自分を利用しかねない事を経験則として知るふたりは、お互いのなかに自分と同類の「何か」を見出していた。ふたりが周囲の雑音に迷わされることなく、情熱的に恋を成就させ、生涯のパートナーとして絆を深めて行くくだりが感動的だ。
驚くべきはヴィクトリアの強靭な意志だ。18歳にして母と決別し、女王になることを決意した意志。王室の権力争いのただなかにおいても自身を見失うことのなかった意志。腹の中で舌を出しているような政治家との駆け引きでも一歩も引かない意志。そうした意志の原動力になっているのは、かごの中の鳥のように自由を奪われながら育てられてきたことへの反抗心だ。彼女の凛とした言行は、自由を希求する信念の裏返し。その姿がじつに高貴で美しい。恋愛モノとしてだけでなく、自立の物語としても十分に楽しめる。
二度のアカデミー賞受賞経験をもつ衣裳デザイナー、サンディ・パウエルが手がけたヴィクトリアのドレスを含め、ヴィクトリア朝時代の歴史考証に忠実な衣裳や美術が、物語への自然な感情移入を手助けする。イングランド中の宮殿や城、聖堂で撮影したリアルなロケーションも大きな見どころだ。製作にマーティン・スコセッシの名前がクレジットされているが、初監督となるジャン=マルク・ヴァレもスコセッシのご指名だという。歴史大作とまではいかないものの、巨匠が力を貸したのもうなづける。
イギリス史上最長の在位64年を達成したヴィクトリア女王の伝記映画「ヴィクトリア 世紀の愛」は、常に喪服を着ていた晩年期にはあえて触れず、彼女の人生で最も起伏に富んでいた青春時代を瑞々しく甦らせた秀作だ。テンポよく紡がれたドラマは、いい意味で大化けしたエミリー・ブラントの好演と相まって、ぜい肉のない引き締まった印象を受ける。ただし、いくら青春期にフォーカスしたとはいえ、102分で語り尽くせるような簡単な人物ではないことも事実。恋愛と自立を軸としたドラマチックな視点の一方で、ヴィクトリアの公務をより具体的に描くなどして、英国王室映画としての値打ちを高めてもらいたかった。


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