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映画批評「オーシャンズ」

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2010.1.22 映画批評
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本日公開の「オーシャンズ」。
監督:ジャック・ペラン、ジャック・クルーゾー 音楽:ブリュノ・クーレ 日本語吹替え版ナレーション:宮沢りえ 上映時間:103分 配給:2009仏/ギャガ
海に住む生き物たちの行動にカメラが迫ることの難しさは想像に難くないが、本作「オーシャンズ」は、生き物たちのありのままの生活ぶり、その決定的瞬間を「CGではないのか?」と勘ぐりたくなるほどのタイミングと距離でカメラに収めている。海洋生物だけでなく、その映像演出の巧さ、美しさにも注目したい1本だ。


冗長なシーンがほとんどない。それもそのはず、この映画はすべてを偶然まかせに撮影したものではなく、ジャック・ペラン監督と世界観を共有する12人のカメラマンが、超最新のカメラを持ち、なおかつ綿密に練った計画に沿って撮影に挑んだものなのだ。ペラン監督は、海洋を専門とする科学者たちに、あらかじめお目当ての生き物の生息地や移動ルートを予測させ、それに伴う絵コンテを描き上げたうえで、はじめてカメラを海中に下ろした。ありのままの自然の姿を、偶然まかせではなく、“確実に”カメラに収めようとしたのである。
一貫した世界観に基づいて撮影されたリアルな映像は、シーンごとの映像クオリティにもばらつきがなく、まるで「ヨーイ、スタート!」のかけ声を受けて、役者である生き物たちが脚本に沿って動き出したかのような「おいしい」シーンを量産する。
ボートと最新の撮影システムを組み合わせて撮られた超高速ショットや、特殊高感度カメラを使って撮影した美しい海の「青」の再現力、小型ヘリコプターカメラで撮影した鳥瞰映像、水中に設営した移動撮影用レールを活用したブレのない遠望ショットなど、ありとあらゆる撮影機材を駆使して収めた「演出にこだわった」海中世界の映像は、これまでの海洋ドキュメンタリーとは一線を画す新鮮さと驚きを与えてくれる。
たとえば、イワシの魚群が海底のハセイルカと海上のカツオドリから猛烈な挟み撃ち攻撃を受けるシーンでは、あらかじめ水中と海上の両方にカメラを構えることで、まるで複数のカメラで同一シーンを撮影する実写ドラマのような臨場感を獲得している。また、当初は何の変哲もないカニの一群にしか見えなかったあるシーンでは、海底をじわじわと進むカメラがある岩を超えたとき、突如として、高さ1メールにも重なり合った5万匹のクモガニが一斉交尾する異様な光景を映し出す。ただでさえ劇的な瞬間をあえて劇的な映像演出でとらえることで、観客が受ける衝撃は何倍にも増幅する。
そして、何もかもを超越してダイレクトに伝わってくるのが、海中世界の神秘と魅力だ。芸術的な姿形、それに色遣いをした生物たち。彼らを作り出したのは、一体何者なのだろうか? そんな究極的な問いを投げかけずにはいられなくなる。巨大クジラも、そのクジラに一口にのみ込まれる小魚も、自らは遊泳能力をもたないプランクトンも、海底に住む珊瑚や貝も。なにか大きな必然のなかに生かされているように思えてならない。
環境を破壊する人間への手厳しいメッセージを過度な演出で盛り込んだ一部のシーンについては、“やりすぎ”と言わざるを得ないが、ドキュメンタリーというのは現実を映し出すと同時に、作り手の主張でもある。好意的に解釈するなら「海を守りたい」というペラン監督の強い気持ちの裏返しなのだろう。
本作「オーシャンズ」は、世界50カ所、約70回の撮影を経て撮影された100種類におよぶ生命たちの、ときに愛らしく、ときに凶暴な素顔に迫るネイチャードキュメンタリーの秀作だ。ドキュメンタリー映画史上最高となる70億円を投じた映像は贅沢そのもの。子供から大人まで幅広い層にオススメしたい。


お気に入り点数:75点/100点満点中

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