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映画批評「バッド・ルーテナント」

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2010.3.16 映画批評
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公開中の「バッド・ルーテナント」。
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 脚本:ウィリアム・フィンケルスタイン 出演:ニコラス・ケイジ、エヴァ・メンデス、ヴァル・キルマー、フェアルーザ・バークほか 上映時間:122分・R15+ 配給:2009米/プレシディオ
鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督がニコラス・ケイジを主演に迎えて撮影した本作「バッド・ルーテナント」は、その暴力性と宗教描写で公開当時物議を醸した「バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト」(1992年)のリメイク作品。場外では新旧作品の監督同士が互いをなじる舌戦をくり広げたそうだが、そんなきな臭さももこの作品にはお似合いか。
基本は<バッド・ルーテナント=悪徳警部補>な主人公の予見不可能な行動に迫ったスリルあふれるクライム・サスペンス。暴力、ドラッグ、ギャンブル、SEX、犯罪……などが渦巻くワル指数120%の異色エンターテインメントだ。


舞台はアメリカ南部のニューオーリンズ。テレンス刑事(ニコラス・ケイジ)は、優秀な刑事として警察内部で高い評価を受けていた。ところが、それはあくまでも表の顔。裏の顔は、アメフト賭博にのめり込み、交際する高級娼婦フランキー(エヴァ・メンデス)と一緒にドラッグに手を染める“不良”であった。しかも、ドラッグの入手ルートのひとつは、警察で押収した証拠品だ。ある日、子供を含めた一家5人が惨殺される事件が起き、テレンスは捜査の指揮を執ることになるが……。
見どころは、薬に手を染めるテレンスの悪徳刑事&ジャンキーぶり。これに尽きる。ヘロイン所持のカップルを捕まえたかと思えば、その場で押収したヘロインを吸い始め、女性には性的暴力さえ加えるという“あり得ない”やりっぷり。隠し事を吐かせるためにある老婆に対して行った強請(ゆすり)などは、マフィアも真っ青の傷害行為である。
テレンスのドラッグ依存度が高まっていき、中盤以降はテレンスにふつうに接する周囲の態度が不自然に思えるほどの“グダグダ時々バイオレンス”モード。「リービング・ラスベガス」(1997年)で見せたニコラス・ケイジの泥酔い演技は今でも語りぐさだが、今回のトリップ演技(幻覚状態の演技)もすさまじい。テレンスが「イグワナ」や「ダンス」をキーワードにした幻覚に襲われるシーンでは、まるで観客に肩すかしを食らわすかのように、シュールな演出が取られている。もっとも映画ファンはニヤリとするだろうが。
「新春・悪徳刑事大賞」が開かれていたら、最有力候補としてノミネートされるであろうテレンスが、刑事としてのプライドと正義感をわずかに残しているところも、本作「バッド・ルーテナント」のおもしろさ。人間性が崩壊していき、テレンスの犯罪行為も徐々に表沙汰になっていくが、体には刑事としての本能が染み付いているようだ。明らかに挙動不審な状況のなか、彼は完全に堕落するのか、それとも……。結末はその目でご確認のほど。まさか世の中の不条理をこの形で描くとは、恐れ入った。
善悪のボーダーラインについて考えさせられる「バッド・ルーテナント」は、<悪徳警部補>テレンスの立ちまくったキャラクターも相まって、強烈な印象を残す1本だ。ちょっぴり汚れた女性を演じさせたらピカイチなエヴァ・メンデスの起用も見ごとに的中している。
惨殺事件の犯人探しにスリルと意外性がなかったのが残念だが、ニコラス扮する<悪徳警部補>の強烈なキャラクターが、そんな物足りなさを補ったうえに、何の出血大サービスか、お釣りまでふるまってくれる。ニコラスのキャリアにおいても、本作は重要な作品となるだろう。


お気に入り点数:70点/100点満点中

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