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映画批評「マイレージ、マイライフ」

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2010.4.7 映画批評
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公開中の「マイレージ・マイライフ」。
監督・製作:ジェイソン・ライトマン 原作:ウォルター・カーン 脚本:ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー 撮影:エリック・スティールバーグ 音楽:ロルフ・ケント 出演:ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック、ジェイソン・ベイトマン、メラニー・リンスキー、エイミー・モートン、サム・エリオット、J.K.シモンズ、ダニー・マクブライドほか 上映時間:109分 配給:2009米/パラマウント
ライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)の仕事は、企業のリストラ対象者に解雇を告げるリストラ宣告人。アメリカ国内を飛び回り、年間322日も出張している根無し草のビジネスマンだ。あるときライアンは、自分と同じように国内を飛び回っているキャリアウーマン、アレックス(ヴェラ・ファーミガ)と出会って意気投合する。一方、仕事では、ネット上で解雇通告を行う新システム導入を提案する新人ナタリー(アナ・ケンドリック)と意見が対立し……。


カードに貯まったマイレージはもう少しで1000万マイル。ライアンはそれを人生の目標にしている。身軽な生き方は評判を呼び、講演にも引っ張りだこだ。都市から都市へと渡り歩き、堂々とした態度で解雇宣告を行うライアンは、自分の生き方に満足してる。パリっとしたスーツを着て、水戸黄門の印籠よろしく特別客だけが持つプレミアムなカードをちらつかせながら、空港やホテルにさっそうとチェックインする姿は、“できるビジネスマン”そのもの。そんなライアンの完璧な生き方に憧れを抱く観客も少なくないだろう。
ところが、ドラマが進むうちに見えてくるのは、ライアンの完璧な人生の裏に潜む空虚さだ。1000マイルのマイレージが示すものは、彼が生身の人間同士のコミュニケーションを回避してきた日々の集積でもある。そのことに本人は無自覚であったが、アレックスやナタリーとの交流、あるいは実の妹の結婚エピソードを通じて、ライアンのなかに今までに感じたことのない感情が芽生える。
これまでの完璧な人生を否定しようかという彼の心情の変化は、人生をバックパックに例えるこの映画のテーマに明確な輪郭を与える。この手の「気づき」と「成長」を10代、20代の主人公で描くならまだしも、もはや人生観が固化していてもおかしくない壮年男性で描いたところも本作「マイレージ、マイライフ」の妙味。固化していようがいまいが、人生観を一変させる出来事は、いつでも誰にでも起こりうる、ということなのだろう。
バックパックにたいした荷物も入れずに空の旅を続けるのは確かにラクでカッコいい。充実している気分にもなるだろう。だけど、バックパックに入り切らないほどの荷物を積み込んだ人生では、誰かが救いの手を差し伸べてくれることもあれば、身近な人と協力して荷物を持つ事もできる。そもそも人を単に「重たい荷物」としてしかとらえられない思考ほど短絡的なものはない。この映画はライアンの気づきを通じて、「他人の価値」そして「人間と人間がつながる意味」について考えさせる。
時代と人間を描く演出は軽妙だが、一方で、社会に対して問題を提起する力もピカイチ。リストラ宣告人というアメリカの「今」を切り取る設定にも、皮肉と示唆がたっぷりと込められている。娯楽映画のふりをしながらも、その実は知的で社会的で哲学的な秀作だ。「サンキュー・スモーキング」(2006年)や「JUNO/ジュノ」(2007年)で才能の片鱗を見せたジェイソン・ライトマン、この監督のしたたかさはタダモノではない。

お気に入り点数:80点/100点満点中

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