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映画批評「月に囚われた男」

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2010.4.24 映画批評
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公開中の「月に囚われた男」。
監督:ダンカン・ジョーンズ 脚本:ダンカン・ジョーンズ、ネイサン・パーカー 撮影:ゲイリー・ショー 美術:トニー・ノブル 音楽:クリント・マンセル 出演:サム・ロックウェルほか 声優:ケヴィン・スペイシー 上映時間:97分 配給:2009英/ソニー・ピクチャーズ
各地のインディペンデント映画祭で高い評価を受けた本作「月に囚われた男」は、かのロックスター、デヴィッド・ボーイの息子、ダンカン・ジョーンズが撮影した初長編監督作品。月で独りで暮らす男を主人公にしたサスペンスフルなSFミステリーだ。
宇宙飛行士のサム(サム・ロックウェル)は、月に派遣されて3年目。たった独りで地球に不可欠なエネルギー源「ヘリウム3」を送る任務を遂行していた。唯一の相棒の名前はガーディ。人工知能を備えたコンピューターだ。
妻や娘が待つ地球への帰還まであと3週間に迫っていたサムだったが、ある日,基地の外をパトロールしているときに事故に遭う。気がついたら診療室に横たわっていたが、そこでサムは自分と同じ姿をした人間を目撃する。いったい彼に何が起きたのか? やがてサムはある驚くべき真相に直面することになる……。


「2001年宇宙の旅」(1968年)をはじめ、60〜70年代のSF映画を彷佛させる設定の物語は、主人公サムの心の物語でもある。独りで3年間もどのようにして暮らしてきたのか? 食事は? 健康管理は? 家族との連絡は? 与えられた任務とは? そうした疑問に答えるかのように、映画は冒頭から主人公サムの1日の行動を丁寧に描いていく。
事故が起きてからは、混乱を来すサムの心理が掘り下げられ、その深度に比例するかのように、物語のミステリー&サスペンス量も一気に増量する。サムが次々と直面する不可解な出来事を前に、観客は改めて彼が置かれた状況の把握を迫られる。地球との交信を絶たれた月の裏という舞台設定が本当の意味で生きてくるのは、サムが「何かおかしい」と感じたこの中盤以降だ。何かの勘違い? それとも陰謀? あるいは夢? 主人公の猜疑心と観客の好奇心を十分に刺激した末に、映画は、淡々と、あるおぞましい真実を浮かび上がらせる——。
意外性のあるミステリーのタネ明かしに加え、人類の未来に警鐘を鳴らしたストーリーテリングは、大胆な舞台設定の後押しもあって、ひねりの利いた作品を好む映画ファンを満足させるだろう。幕切れの美談はサービス精神が少々旺盛すぎるかもしれないが、そこに至るまでに受けた主人公の絶望と哀しみに同情を禁じ得ない観客にとっては、カタルシスをもたらすこうした美談も悪くないのかもしれない。
ダンカン・ジョーンズ監督の才能が“七光り”でないことは、この作品に対する世界中の評価が示す通りだ。決して潤沢とはいえない予算のなかで唯一無二の世界を構築したうえで、人間の内面に鋭く切れ込み、人間の知能の結晶たる科学技術の傲慢さや資本主義の愚行に、皮肉と批判を突きつける。ダンカン監督の映画作家としての才能の片鱗をうかがい知るに十分である。
人格の異なる一人三役を熱演したサム・ロックウェルには、主演賞と助演賞をダブルで贈りたいところだ。一人芝居に加えての一人三役は神業。演技力の高さもさることながら、97分にわたって観客の興味を引き付け続けた存在感も評価したい。コンピューター・ガーディの声を担当したケヴィン・スペーシーが、ロックウェルのラフカットを見て「声だけの出演」を快諾したというエピソードもうなずける。

お気に入り点数:80点/100点満点中
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