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2011年1〜4月 「映画」プチ批評

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2011.5.1
2011年1〜4月の作品を、一気にプチ批評!
「しあわせの雨傘」(フランス)
http://amagasa.gaga.ne.jp/
家族から“置き物”のように扱われていた妻が、雨傘工場の経営者である夫が倒れたのをきっかけに、経営者としての才能を開花させていく……。亭主関白の主人を(結果的に)出し抜いて、華やかな人生へと離陸する熟年女性の決意(開き直り?)が爽快。名女優カトリーヌ・ドヌーブを起用してフランソワ・オゾン監督が紡いだのは、豪華なビジュアルと軽妙洒脱な演出で観客を酔わせる愛すべき人生讃歌だ。ドヌーブとカラフルな傘たちのさり気ない共演は、名作『シェルブールの雨傘』へのオマージュだ。 70点
『僕が結婚を決めたワケ』(アメリカ)
http://www.boku-kekkon.jp/
ヒットメーカー、ロン・ハワード監督の最新作は、友人の妻の浮気を知った主人公が、真実を友人に話すべきか否かで葛藤。そうこうしているうちに、自身の恋人との関係にも疑心暗鬼になっていく……という恋愛コメディ。『僕が結婚を決めたワケ』というタイトルとは裏腹に、ドラマも重心は「恋愛」ではなく「友情」に置かれている。「素直さ」をキーワードに、人間心理の奥深くに切れ込んでいく展開が見事だ。 男優コンビ(ヴィンス・ヴォーン×ケヴィン・ジェームス)のコメディセンスが冴えまくる、笑えて心温まるオススメの1本。 85点
「ヤコブへの手紙」
http://www.alcine-terran.com/tegami/
舞台は1970年代のフィンランド。12年の刑期を終えて出所した女性レイラと、盲目の牧師ヤコブの交流を描いた作品。不信感の塊だったレイラが「赦し」と「愛」を得て、人生を肯定し始める希望の物語だ。登場人物はレイラとヤコブ、それにヤコブに手紙を届ける郵便配達員の3人。こんな小さな作品でも、人の心を打つことができるのかあ、と映画の魅力を再認識させてくれた秀作だ。不可解な行動を取る郵便配達員が、ちょっぴりミステリアスな雰囲気を醸す。 85点
「ハーモニー 心をつなぐ歌」(韓国)
http://www.harmony-movie.com/
実話から生まれた女子刑務所合唱団の物語『ハーモニー』は、「韓国で300人が号泣した」という宣伝文句に偽りなしのエンタテインメント。18ヵ月だけ刑務所で子供だけ暮らす事が許されている母親ジョンヘ(キム・ユンジン)のドラマもさることながら、この映画の“良心”とも言えるある死刑囚の身に待ち受けていた結末も号泣必死。孤独や絶望、罪悪感など、さまざまな感情を抱く受刑者たちが、心をひとつにして奏でる合唱を聴きながら、「この映画はズルすぎる!」と心で抵抗するのが精一杯だった。 70点
「ブローン・アパート」(イギリス)
http://blown-apart.com/
恋人との情事を楽しむその最中、息子と夫が爆破テロに巻き込まれて死亡……。大胆なシチュエーションから母親の罪悪感と喪失感を描こうとしたまではよかったが、テロにまつわる陰謀劇にまで手を広げたことで、テーマが完全にボケてしまった(恋人の取材活動もご都合主義)。主人公の母親を演じたミッシェル・ウィリアムズの美しい裸体も、脚本の失敗を補うには至らなかった。鑑賞後に残るのは、余韻ではなく痛々しさだ。 30点
「幸せの始まりは」(アメリカ)
http://bd-dvd.sonypictures.jp/shiawase-hajimari/
ソフトボールの女子全米代表チームから突然クビを宣告された31歳のリサが、恋という新たなフィールドで人生を模索する恋愛コメディ。リサが心惹かれるのは、人気大リーガーの肉食系マティと、誠実だが投資詐欺の容疑をかけられている草食系ジョージのふたりだが、三者のドラマ展開上の接点が少ないため、くり広げられるシーソーゲームがリアリティに欠ける。本来であれば作品を引き締めるはずのジャック・ニコルソンの存在も空転気味。「選択」や「決断」をテーマにするのであれば、ことさら感情の伏線が張りに力を入れるべきであった。 40点
「恋とニュースのつくり方」
http://www.koi-news.jp/
低視聴率情報番組のプロデューサーに採用されたベッキー(レイチェル・マクアダムス)が、体当たりの企画実現力で視聴率をV字回復させていくハッピームービー。失敗を恐れずに突き進む主人公は頼もしくもあるが、あまりに一本調子に突き進む姿は、少々、いや、相当に痛々しい。反目する大御所キャスターふたり(ハリソンフォード×ダイアン・キートン)の笑えるバトルが、ある意味、いちばんの見どころ。ベテランの活躍に救われた1本だ。 40点
「再生の朝に -ある裁判官の選択-」(中国)
http://www.alcine-terran.com/asa/
刑法改正のタイミングに起きたある窃盗事件の裁判で、被告に死刑判決を下したベテラン裁判官のティエン。彼はひとり娘を事故でなくして絶望の淵に立っていた。事件に関わるさまざまな立場の人たちが思惑を交錯させるななか、ティエンの気持ちに少しずつ変化が生まれる。そして死刑執行当日、彼はある思いもよらない行動に出るーー。失職覚悟の英断は、彼自身が再生を果たすためにも必要不可欠であった。抑制を利かせた演出が、ティエンの振幅する心情をまざまざと浮かび上がらせる。 60点
「アメイジング・グレイス」(イギリス)
http://www.amazing-movie.jp/
奴隷解放運動に生涯を捧げた政治家ウィリアム・ウィルバーフォースの半生に迫った秀作。既得権益を守ろうとする奴隷制擁護派から容赦ないバッシングを受けながらも、奴隷貿易撤廃への意欲を失わず、行動をし続けるウィルバーフォースの不屈の精神が、観る者に大きな感動を与える。彼を支えたのは、志を同じくする妻の存在と、師であるジョン・ニュートンが作詞した名曲『アメイジング・グレイス』であった。重厚な絵作りと英国屈指の俳優たちの名演が光る秀作だ。 85点
「大韓民国1%」(韓国)
http://www.alcine-terran.com/rok/
入隊率わずか1%の<海兵隊特殊捜索隊>に入隊した女性士官イ・ユミの奮闘を描いたエンターテインメント作品。スポ根ドラマにベタなユーモアを交えた演出は、まるで70年代のB級娯楽映画のよう。あろうことか、訓練中に北朝鮮領土に不時着する「トンデモ」な展開で、観客を唖然の極地へと誘ってくれる。主人公と対立するワン・ジョルパン下士(イム・ウォンヒ)が、敵意をむき出しに、次から次へと仕掛けてくる稚拙な妨害作戦が痛々しい。よくもまあ韓国軍隊のイメージダウンにつながらなかったものだ……。 50点
「ランナウェイズ」(アメリカ)
http://www.runaways.jp/
物語のモデルは1970年代に一世を風靡したガールズバンド、ランナウェイズ。彼女たちのデビュー前夜から悲劇的な空中分解までを赤裸々に綴ったビターな青春記だ。衝撃的な悩殺パフォーマンスで時代の寵児となったランナウェイズだが、祭り上げられた虚像の重圧にさらされながら、メンバーたちは迷い、傷つき、葛藤する。クリステン・スチュワートとダコタ・ファニングの全身全霊を捧げた演技が、偏見という荒波を切り裂いて時代を突き進んだランナウェイズの「熱」と重なる。 75点
「ショパン 愛と哀しみの旋律」(ポーランド)
http://www.chopin-movie.com/
繊細な楽曲を世に送り出した“ピアノ詩人”ことショパンの半生を描いた人間ドラマ。女流作家ジョルジュ・サンドとの出会いと別れ、息子との確執、娘との恋沙汰、自身の肺病など、さまざまなドラマが絡む激動の人生は、苦悩や挫折を創作の肥やしとする芸術家の宿命か。しかし、その本質は「放蕩」というよりは「純粋」で、誰よりも弱く傷つきやすい“時代の寵児”の素顔が浮き彫りとなる。急ぎ足の展開は賛否が分かれるところだろうが、世界的な演奏家が担当した音楽は絶品。クラシックファンには喜ばれるだろう。 60点
「台北の朝、僕は恋をする」(台湾)
http://aurevoirtaipei.jp/

名物の夜市やコンビニ、公園、地下鉄……等々、古きと新しきとが混在する台湾の街を舞台にした本作は、知り合って間もない若い男女が、さまざまな危険&トラブルを乗り越えながら、お互いの距離を少しずつ縮めていくコミカルなラブストーリー。生活感や活気、それに色と光にあふれる台湾の街並が存分に味わえる点はすばらしいが、ひょんなことからふたりが巻き込まれる裏社会の陰謀劇は、スリルやリアリティが「B級コント劇」のそれ。本格派のラブストーリーを期待すると肩すかしをくらうだろう。 35点
「木洩れ日の家で」(ポーランド)
http://www.pioniwa.com/nowshowing/komorebi.html
ポーランドはワルシャワ郊外の森。人生の大半をすごした木造の古い屋敷で、91歳になるアニェラは、愛犬のフィラデルフィアと静かに暮らしていた。大切な思い出と共に生きる彼女だったが、息子夫婦との確執や自宅の売買問題に直面する……。現実を憂いたアニェラが、人生の引き際に下した決断が静かな感動を誘う。気品漂う詩的なモノクローム映像と撮影当時91歳だった主演ダヌタ・シャフラルスカの人間味あふれる演技に注目だ。 65点
「ゲンスブールと女たち」(フランス、アメリカ)
http://www.gainsbourg-movie.jp/
1991年に急逝した芸術家セルジュ・ゲンスブールの破天荒な生涯に迫った伝記映画。酒とタバコと音楽と自由を何よりも愛し、美男子でないにも関わらず、独特の繊細さとダンディズムで世の美女を渡り歩いた鬼才の伝説的エピソードの数々を、人気のバンドデシネ(フランスのコミック)作家ジョアン・スファールが、色気のあるアーティスティックな映像で甦らせる。シャンソン、ジャズ、フレンチ・ポップ……等々、ゲンスブールが奏でる名曲と共に紡がれる物語は、エレガントにして情熱的。エリック・エルモスニーノの神懸かった演技も見逃せない。 80点

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